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第61次 教育研究愛知県集会

2011/10/22

1 国語教育 文学その他
作文その他
2 外国語教育
3 社会科教育 小学校
中学校
4 数学教育 算数
数学
5 理科教育 物理・化学
生物・地学
6 生活科教育
7 美術教育
8 音楽教育
9 技術教育
 
10 家庭科教育
11 保健体育 体育
保健
12 自治的諸活動と生活指導 小学校
中学校
13 能力・発達・学習と評価
14 特別支援教育
15 進路指導
16 教育条件整備
17 過密・過疎、へき地の教育
18 環境問題と教育
19 情報化社会の教育
20 読書・学校図書館
21 総合学習

基調報告より

 現在、各学校では子どもたちの健やかな成長を願い、日々教育活動に取り組んでいます。そして、ゆとりとふれあいの中で子どもたちに主体性・創造性を育み、自ら課題を見つけ、判断し、行動できる「生きる力」を身につけさせることをめざした実践研究がすすめられています。
 これまでの60次にわたる教育研究において、わたくしたちは夢と希望あふれる教育の創造をめざし、子どもたちを中心にすえ、それぞれの学校・地域の特色を生かした、自主的・主体的な研究を行ってきました。また、保護者への意識調査を実施し、今日的な教育課題を明らかにするとともに、各地域で教育対話集会や学習会を行い、保護者や地域の方々と意見交換をする中で、子どもたちの「生きる力」を育む取り組みについての合意形成をはかってきました。今後も、子どもたちに学ぶ喜び・わかる楽しさを保障するために、教育課程編成についてさらに研究をすすめ、「各学校における教育課程編成への指針-ゆたかな学びにむけて-」を発行し、発信していきます。
 さて、日本は今、大きな試練のときを迎えています。社会全体に閉塞感が漂い、夢を描きにくいこの時代、わたくしたちは、子どもたちに対し、自らの夢を見つけ、たくましく成長してほしいと願わずにはいられません。このようなときだからこそ、体験や知識をもとに自ら課題を見つけ、判断し、行動することのできる力や学ぼうとする意欲も含めた総合的な力、すなわち「生きる力」を育むことが大切です。
 しかしながら、小学校では本年度から、中学校でも来年度から完全実施される新しい学習指導要領では、小中学校ともに学習内容と授業時数が増加し、一方で体験的活動や課題解決などを行うために新設されたはずの「総合的な学習の時間」が縮減されています。子どもたちの「生きる力」はゆとりとふれあいのある教育の中で育まれるものであり、単に学習内容や授業時数を増加させるだけでは、子どもたちの負担がいたずらに増えるのみで、子どもたちの健やかな成長につながるとは考えられません。
 わたくしたちは、学習指導要領を大綱的基準としてとらえ、未来を担う子どもたちのために、夢と希望あふれる教育を創造する取り組みを継続し、学校現場からの教育改革を推進していかなければなりません。そのためには、基礎・基本の定着はもちろんのこと、知識がつめこまれるような学びではなく、子どもたち一人ひとりが意欲をもち、自らすすんで取り組む質の高い学びを大切にするとともに、人・自然・文化などとかかわりあい、地域に根ざした体験活動を中心にした学習を構築し、すべての子どもたちのために学校・家庭・地域が連携を強化して、地域ぐるみの教育をおしすすめていかなければなりません。
 今次の教育研究活動においても、ゆとりとふれあいの中で「わかる授業・楽しい学校」の実現をめざし、「学びの質を追究し、子どもたち一人ひとりの学ぶ喜び・わかる楽しさを保障する教育課程編成活動をすすめる」「学校・地域の特色を生かし、人・自然・文化などとのかかわりを大切にした創意あふれる教育課程編成活動をすすめる」の2点を研究推進の重点として提起しました。わたくしたちがすすめる教育改革は、日々の教育実践を積み重ね、その中で成長していく子どもたちの姿で示すべきだと考えます。各分科会においては、実践研究の報告をもとにして、活発な議論を展開するとともに、その成果を各単組・各分会にもち帰り、還流をはかっていただくことを大いに期待します。
 最後になりましたが、この教育研究愛知県集会が愛知の教育のさらなる推進のため、そして何よりも目の前の子どもたちの健やかな成長のために、実り多いものとなることを祈念し、本集会開会にあたっての基調報告といたします 。

分科会

分科会の様子

国語教育(文学その他)

 説明的文章8本と、文学的文章33本のリポートが報告された。目の前の子どもたちを見つめた地道な実践が多く、どのような教材で、どのように読む力をつけるべきかについて、報告されたリポートをもとに、話し合われた。

国語教育(作文その他)

 表現の指導・言語の指導を通して、目の前の子どもたちの実態を見つめて、どのような子どもを育てるのか、文字言語・音声言語のよさを生かして、どのような力をつけていくのかについて、話し合われた。

外国語教育

 「書く活動・話す活動(スピーチ)」、「小学校外国語活動」、「話す活動(対話)」、「学び合い」という4本の討論の柱にもとづいて、全員発表の形式で行われた。 子ども一人ひとりの外国語学習に対する苦手意識の軽減をめざしながら、積極的にコミュニケーションをはかろうとする態度や能力の育成に重点を置いた地道な研究実践が数多く報告された。

社会科教育(小学校)

 子どもたちの追究意欲を高めるために、身近な地域の産業や事象を素材として活用し、調査・体験活動の時間を保障した上でまとめ方や発表の仕方を工夫した実践が数多く報告された。 また、地域のために働く身近な人や、地域で活躍した先人の働き、身近な歴史的事象や政治問題を、どう教材化し、どのような社会認識を養うかについて取り組んだ実践も報告された。 討論では、子どもたちの社会へ参画する力を高めるために必要な体験活動のあり方や、社会参画の意識を高めるための対話能力の重要性について熱心に話し合われた。

社会科教育(中学校)

 子どもたちが主体的に取り組む学習活動のあり方や、社会に対する見方・考え方を深める学習指導のあり方についての実践が報告された。
 身近な素材を教材化して地域社会の問題点を取り上げたり、地域規模の課題を子どもとつながりのあることとしてとらえさせたりして、切実感をもたせ追究していく実践や、学ぶ喜びを感じとることができるよう学習活動を工夫する実践、社会参画の意識を育む実践が多く報告された。

数学教育(算数)

 「思考力・判断力・表現力の育成」「活用力の育成」「わかる・できる指導の工夫」「学び合う力の育成」の4本の柱立てで、実践の報告や討論が行われた。
 どの報告からも算数の学習において基礎・基本の定着に主眼を置き、子どもが「できた・楽しい」と感じる学習展開の様子がうかがわれた。討論では、自分の考えをどのように表現させるか、どのように話し合わせると学びが深まるのかなどについて話し合われ、活発な意見交換が行われた。

 数学教育(数学)

 「確かな学力の定着」「数学的な見方や考え方」「学習形態の工夫」「自ら学ぶ力・意欲の育成」の4本の柱立てで、実践の報告や討論が行われた。どの報告からも、数学の学習において自らが意欲的に取り組み、「わかる」喜びを感じることができる学習展開の様子がうかがわれた。
 討論では、それぞれの実践における評価の仕方や、理解に時間のかかる子どもに対しての手だて、これから改善していくべき課題などについて話し合われた。

理科教育(物理・化学)

 子どもの発達段階や学習内容の系統性をふまえ、子どもが主体的に追究できるように単元構成を工夫した実践が報告された。また、自然概念形成を行うために教材・教具の工夫をした実践も数多く報告された。
 「子どもの発達段階をふまえた教育課程編成のあり方」「自然概念形成に有効な教材・教具の開発、指導の工夫」などの柱立てのもと、討論が行われた。科学的な思考力を養う指導方法や理科の「基礎・基本」を定着させる指導方法についての意見が出された。また、実感を伴った学びや、知識と日常生活との関連づけの必要性についての意見も出され、活発な話し合いが行われた。

理科教育(生物・地学)

 身近な自然に目を向けさせ教材化する実践、飼育・栽培活動を継続的に行う実践、マクロな自然現象のモデル化により子どもたちの理解を深める実践、キーワードを提示することで考えを深める実践などが報告された。
 討論では「基礎・基本を重視するカリキュラムのあり方」「地域の素材・人材の教材化」「子どもの視点に立った教材・教具の開発」「子どもたちに理科の有用化を実現させる指導のあり方」などについて活発な意見が出された。その中で、科学的な事実を理解するためには用語の意味を正確にとらえることと、それを使った文を構成する力を養うことが重要であることが確認された。 

生活科教育

 栽培活動や自然とのかかわりを通して自然への愛着を深める実践や、おもちゃ遊びや探検活動などを通して気付きの質を高める実践が多く報告された。
 気付きの質を高めるために言語活動を重視し、工夫されたワークシートに記述することで意識化したり、友だちに話すことで価値づけたりしている報告が多くみられた。
 討論では、「つぶやきを拾い上げる方法」「気付きを見取る方法」「双方向性のあるかかわりをもたせるための手だて」などについて、活発に意見交換が行われた。

美術教育

 「美術教育を通して子どもたちに伝えたいこと」をテーマに実践報告や討論がすすめられた。
 総括討論では授業の中で教員が感じていることや子どもたちの実態に迫ることからテーマを深めることができた。「自然素材などの材料不足」「体験不足」「自信がもてない子ども」「発想を豊かにする難しさ」など、課題となる実態を認識しながらも、「教員の想像を超える子どもの発想力」「友だちとの豊かなかかわり」「作品に愛着をもつ姿」など、子どもたちの可能性に目を向けた話し合いが行われ、子どもたちに身につけさせたい力とは何かを考えることができた。

音楽教育

 音楽を通してどのような子どもを育てたいのか、また音楽科教育におけるコミュニケーションとはどのようなものなのか、をテーマに討論をすすめた。
 ビデオ・DVDによる実践報告では、どの報告もいきいきとした子どもの様子や、教員が意図したように変容していく様子をよくとらえていた。
 小学校低学年では、親しみやすい楽曲や、わらべ歌などに合わせて体の動かし方を工夫したり、グループで曲の場面や歌詞の意味を身体表現したりする活動が報告された。小学校中学年では、地域の和太鼓を取り入れた実践や歌唱活動における基礎・基本を身につけるための実践が報告された。小学校高学年や中学校では、合唱指導におけるブレスコントロールや頭声的発声の基本を身につけさせる実践が多く報告された。

技術教育

 生活の中で技術科が果たす役割について体験的に学ぶ実践が多く報告された。材料と加工では、課題解決学習や技能向上へのさまざまな手だてによって基礎・基本を身につける学習がすすめられた実践、エネルギー変換では、作業の反復練習や実験を取り入れたことにより、達成感や楽しさを感じることができた実践、生物育成では、地域や環境を考えた取り組みがみられた実践、計測と制御では、段階的な学習や子どもの関心を喚起する実践などが報告された。

家庭科教育

 小中学校ともに、調査活動を取り入れたり、家庭や地域社会とかかわる総合的・発展的な内容などを取り入れたりし、家庭科の総合的な学習内容を生かした実践が多くみられた。また、実験や実習で調理や衣服の手入れの方法について、手順とその理由をていねいに追究する実践もみられた。どのリポートも、生活者として自立する力や、自分の生活や社会をよりよく変えていこうとする力といった、生活を主体的に営む資質や能力を育む実践の報告であり、充実した発表が行われた。

保健体育(体育)

 「体育でどのような子どもを育てるか、自ら考え行動する子どもをどのように育てるか」を大テーマに、「かかわり合いを大切にした授業づくり」「学年に応じた体力向上と技能向上」を研究主題として、発表・討論が行われた。
 どのリポートにも、指導方法の工夫や仲間とのかかわり方にさまざまな工夫のある実践が報告された。討論では、技能習得のための指導のあり方や教材の工夫、評価方法などについて、活発な意見が出された。

保健体育(保健)

 「子どもが生活の主体となるための健康教育」をテーマに、さまざまな健康課題に対応した指導の方法や教材・教具を工夫した実践、保健学習の取り組み、体験活動を重視した実践などが報告された。報告を通して、健康に対する意識の高まりや健康課題を解決するための実践力が着実に育ってきている様子が感じられた。

自治的諸活動と生活指導(小学校)

 「たくましく生きる子どもを育てよう」をテーマに、活発な討論がなされた。
 子どもたちの人間関係を築く力を、学級や学年、縦割りや異学年交流を通してのばしていこうとする実践が多く報告された。また、子どもたちが自分自身を見つめ、自分の課題を克服していくことで、達成感や成就感を味わわせ、よりゆたかな人間性を身につけていく実践も報告された。さらに、学校や保護者、地域社会が連携して一人ひとりの子どもを支援していく実践なども報告された。
 これらの実践報告をもとに、子どもたちの活動のあり方や意義、子どもたちの実態のとらえ方やそれをふまえた教員の支援のあり方について、熱心な討論が展開された。

自治的諸活動と生活指導(中学校)

 「たくましく生きる子どもを育てよう」をテーマに、活発な討論がなされた。
 人権教育や安全教育に関する活動、コミュニケーション能力を高める活動を中心にすえた実践から、子どもの主体的な活動が多くみられる学級活動や生徒会活動、家庭・地域との連携を通じて子どもの成長をねらう実践が報告された。
 これらの実践報告をもとに、子どもたちの実態をふまえた教員の支援のあり方についての検討が深められた。

能力・発達・学習と評価

 コミュニケーション能力を高める取り組みでは、評価の観点の提示やワークシートを工夫した実践、子どもの興味・関心を生かした教材づくりやからだレッスンを取り入れた実践が報告された。
 よりよい勤労観の形成をめざすキャリア教育の取り組みでは、アサーショントレーニングやグループワークなどを取り入れ、自分のよさを見出し、将来の生き方を考えさせる実践が報告された。
 子どもたちの学ぶ意欲を高め、学力をのばす取り組みでは、子どもたちの個性的な学びをのばす二単元同時進行の単元内自由進度学習を取り入れた実践やICT機器を活用し、子どもたちの主体的な学びや確かな学力を育てる実践などが報告された。

特別支援教育

 「豊かに生きるための力を育む」というテーマのもとに38本のリポートが報告された。
 子どもの教育的ニーズを的確に把握し、学習意欲を高めるような教材・教具を工夫した実践、子どもの現在や将来の生活に直接結びつく力を身につけさせるための実践、人とかかわる力やコミュニケーション能力を高めるための実践などが報告された。

進路指導

 「進路指導」という領域の中にも、自己の進路を選択する力や、どんな人間になりたいか考える力、働くことへの関心をもつことなど、多くの目標がある。中学校での職場体験活動を中心にすえた実践から、小学校での自己の生き方について考える実践までさまざまなものが報告された。
 小中学校におけるキャリア教育の必要性が叫ばれるなか、さまざまなアプローチで子どもたちの進路選択における主体性を育む指導がなされていることが確認された。

教育条件整備

 「子どもの学習権の保障をどうすすめるか」を主題に、ICT教育にかかわる条件整備、安心・安全な学校づくりにかかわる環境整備、教育の情報化にかかわる条件整備、さまざまな教科指導にかかわる条件整備について報告された。
 ICT機器を効果的に活用するために、授業実践をもとに充実した学習指導を行うための方法や形態、問題点を探るリポートや、安心・安全な学校づくりのために、現状や問題点をアンケートによる調査報告によってまとめたリポート、教育の情報化について、現状の調査にもとづいたリポートなどが報告され、熱心な討論が行われた。 

過密・過疎、へき地の教育

 地域の素材や人材を総合学習や生活科・国語科などの教科に取り入れることで有効に活用し、友だちや地域とのかかわりを深める実践、地域のよさを発見する実践、他校とのかかわりを深める実践、離島での小中連携についての実践など、少人数校の問題点を考慮しながらも、利点を生かし、地域素材を積極的に活用した教育実践が6本報告された。
 へき地ならではの学校・家庭・地域のそれぞれのよさが生かされた取り組みやへき地校の抱える問題に真摯に取り組む姿勢から、それぞれ特色のある学校づくりへの意欲が感じられた。

環境問題と教育

 地域の素材や人材を総合学習や生活科・社会科などの教材に取り入れることで学びを深める実践、節電や水などの身近なものを教材化し、環境問題解決にむけ、自分にできることから取り組んでいく実践など小学校から5本、中学校から2本のリポートが報告された。
 環境問題について、子どもたちの意識を高めるとともに、よりよい環境づくりに目を向け、実践力のある子どもの育成をめざし、各教科や総合学習の中で、積極的に実践されている様子がうかがえた。

情報化社会の教育

 各教科や総合学習などのねらいに迫るための手だてとして、ICT機器を有効に活用する実践が多く報告された。
 また、子どもたちが、必要な情報を主体的に収集・整理したり、発信・伝達したりする情報活用能力の育成に関する実践も報告された。
 さらに、社会的な問題となっているネット依存やネットいじめ、著作権や肖像権の侵害など情報モラルの育成に関する実践も報告された。

読書・学校図書館

 現在、学校間での差はあるものの、蔵書数が増え、公共図書館との連携もすすめられてきている。しかし、読書の実態アンケートからは、活字離れや読書が嫌いな子どもの存在も指摘された。そこで、さまざまな働きかけを通して、「自ら本を手にとる子、読書が好きな子」を育てるための工夫を凝らした実践が数多く報告された。
 また、各教科の授業で調べ学習を深め、広げていくためには、各校で取り組んだ一つひとつの実践を公開し、共有し合うことが有効であると確認し合った。

総合学習

 地域とかかわり地域への愛着を深める実践、さまざまな体験活動を通して学び方や生き方を高める実践、食育・福祉・国際理解などの今日的課題に取り組む実践が報告された。どの実践も体験活動を効果的に位置づけて問題の解決や探究活動を行っており、単元で育てたい力を明確にしながら、めざす子どもの姿に迫る内容が多く報告された。

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学校・家庭・地域が連携した教育を -第61次

2011/10/22

 特別集会では、宝塚大学教授・大阪市立大学名誉教授の桂正孝さんを講師としてお招きし、記念講演、参加者のみなさまとの意見交換を行いました。
 桂さんから子どもや学校・家庭・地域をとりまく情勢についてのお話をいただき、三者がいかに協働し、子どもたちの健やかな成長にむけ手を取り合っていくかなどについて、ご示唆をいただきました。本集会を通して、子どもたちの健やかな成長のために、学校・家庭・地域が連携した教育活動をめざすことの必要性や重要性について、再確認し合うことができました。

記念講演 「子どもたちの健やかな成長をめざして」
―学校・家庭・地域が連携した教育を―

講師 宝塚大学教授・大阪市立大学名誉教授 桂 正孝さん
<苦悩する子どもたちの問題状況から>

 まず、現代の子どもをどう考えるか、子ども論から考えてみたいと思います。教育を考える時には、子どもから出発しなければいけません。十人十色、百人百色の子どもの暮らしの現実に合わせて教育を考えてみましょう。
 最初に、現在の子どもの教育で気になることを3つあげたいと思います。
 まず1つ目は、今の子どもたちの苦悩の形は、自分探しがうまくいかないということです。自分と絶えずつき合っているのに、なかなかわからない。今よく使う言葉でいうと、立ち位置がわからないということです。その自信のなさから、不登校や社会的引きこもりにつながったり、あるいはいじめという他人を攻撃する形としてあらわれたりしています。わたくしは、今、自分は一体何者なのか、どうしたらよいのか、どんな風に生きていったらいいのか、皆目見当がつかない、よくわからない、そういう子どもが増えてきたということを見逃すことはできないと思っています。
 2つ目は、知的好奇心の萎縮があげられます。人間は他の動物と違って、学習によって多くのことを学んでいきます。これを教育学では、社会的遺伝といいます。その学習、学びということがおもしろくない、という学びに対する拒否姿勢がどんどん強くなっています。「何やねん、おかしいなあ、どうやねん、おもろいなあ、なんでや」という驚き、そういう知的好奇心みたいなものが萎えているのではないかとわたくしは思っています。
 3つ目は、子どもが荒れている様子が見られるということです。80年代に見られた、昔の荒れ方とは違い、今の荒れ方は多様化しています。例えば、不登校や、自らを傷つけ、ひどくすると自ら命を絶ってしまう、といった内側に荒れる子どもです。外から見たら何も見えないのに心の中にものすごい台風が吹いてるんでしょう。たった一人でがんばっているのです。また一方で、非行問題行動など、反社会的な行動をする、といった外側に荒れる子どもも根強く存在します。
 このように、子どもたちが育つ、その育ち具合でいろんな難儀なことが見られると、現代の子どもたちを見ていて感じます。

<グローバル時代の「生きにくさ」に抗って>

 「生きにくさ」は、子どもたちをとりまく状況が厳しさを増していることにも大きく起因していると思います。
 あらゆる現象が地球規模で起こる「グローバル化」が産業構造の空洞化を引き起こす中で、貧しくなっていく家庭が増えてきています。生育環境が貧しくなっていく子どもたちを抱えて、学校現場は奮闘しなくてはいかんというところにきています。これは教員だけではどうしようもできない状況です。他にも高度消費社会・少子高齢化社会・人間関係の希薄化などもあげられると思います。子どもの教育を考える際には、子どもたちが生きる時代の状況をとらえることが必要ですが、そこから見えてくる現状は、これからを生きていく子どもたちにとっては、たいへん厳しいと言わざるを得ません。

<「居場所」は教育実践の基底>

 そういった問題をどう解決していくとよいのか。わたくしは「居場所論」として考えています。教員や親、あるいはいろいろな場面で人を育てている、つまり教育に携わる人は、「居場所」というものを1つの視点として考えてみるとよいのではないでしょうか。先にあげた、さまざまな悩みをかかえている子どもたちは、自分のよりどころである「居場所」を失っているのではないかと思います。
 ここで教育的な居場所という意味で定義をしてみると「安全で安心して生きていくのに不可欠で、自己実現・相互扶助に必要な場所」と考えたいと思います。
 この「居場所」には2つの種類があります。1つは『社会的居場所』です。自分が他者にとって必要とされている、信頼されている、そういう関係をもっているかということです。クラスの中で、あるいは家庭の中で、また会社の中で、自分があてにされていたり、対等なものとして位置づけられていたりする、そして同じメンバーとして扱われているかどうか、ということです。これが『社会的居場所』です。
 もう1つは、『個人的居場所』です。自分の中で、自らの可能性を信じたり、自分というものをどう肯定的に考えたりするかです。自尊感情ともいいますね。英語ではアイデンティティと表現することが近いですね。自分らしさというのでしょうか、「これこそが自分だな」というような自分自身の位置づけです。
 わたくしはこの2つの「居場所」が子どもたちにバランスよくあるといいと思います。1つは、人に信頼されたり、あてにされたり、役に立ったりしているということ、自分もメンバーとして扱われているということ。そしてもう1つは、自分もまあ捨てたものじゃないと思えること。これがいろいろな問題を解決していく足がかりになると思います。この「居場所」という尺度、これを基本にして教育をとらえたらどうかというのがわたくしの考えです。

<「地域コミュニティ」づくり>

 居場所づくりに大きな役割を果たすのが、それぞれの地域コミュニティです。PTAのみなさん、地域のみなさん、行政のみなさん、さまざまな力をお借りして、学校教育じゃなくて学校外のいろいろな教育をどうするか、大人や高齢者も含めた教育をどうするかということが課題です。大阪市では、子どもたちが「育みネット」という形で放課後学校に来て、地域の指導員もいる中で過ごす、という事業を行っています。地域の人が基礎になって活動いただくことで、町づくりもすすめていただいているわけです。
 この地域コミュニティづくりには、3つの要素があるとわたくしは考えています。
 1つ目は自己実現です。自分がやりたいこと、学びたいこと、自分がしたい活動ができるということです。
 2つ目は相互扶助です。これは1000年以上も世間でやってきた伝統、村社会での助け合いです。
 3つ目は公助です。地域コミュニティづくりに際して、いろいろな問題が出てきます。中には個人の自助努力や助け合いだけでは解決できないことがいっぱいあります。そういった時にちゃんと行政や公の力がサポートする、これが公助です。
 3つの要素を合わせて、自助、共助、公助とよく言います。問題はその役割分担と助け合いです。地域コミュニティづくりがすすむと、教育行政も含めて、行政の役割が逆に拡大していくんです。しかし、お金がかかるからどうするか、という問題もそこには含まれるわけですけれども・・・。

<夢と希望がもてる学校生活>

 子どもたちが毎日多くの時間を過ごすのが学校です。学校ができること、すべきこと、限られた学校資源をどこにむけるのか、そういうことを考えたいと思います。
 最初のごあいさつにも、「夢と希望がもてる学校生活」という言葉がありました。教育について、わたくしは、アラゴンという詩人が昔綴った「教育とは 希望を胸に刻むこと」という言葉に胸打たれたことを覚えています。学校教育を重ねれば、真理や真実を子どもたちの心に刻むことができるとわたくしは思っています。
 学校には、出会いがあり、ふれあいがあり、学び合いがあり、育ち合いがある。今国民が共通体験をする場所は、学校しかなくなってきています。かつては地域に出会いや学び合いの場がありました。高度経済成長のときは、企業にもありました。時代の変化とともにそれらは激減してしまっています。
 その限られた学び合いの機会をよりよいものにするために、子どもたちがよい点数をとることだけでなくて、出会いとふれあいの中で、考えることがおもしろい、学びがおもしろい、という授業を、学校を創造していくことが大切です。また同時に、これはわたくしたち教員の一番の願いです。そのために研修や、本日のこの教研があるんです。
 本日の教研はこの特別集会と分科会があると聞いています。案内状を見ますと、先生方はそれぞれの会場にて、27の分科会に分かれて国語や数学、環境教育など、自らの教育実践をもとに討論し合い、高めようとしていらっしゃいます。そこに大学の教授なども助言に関わっていると。こういうことはしっかり続けてほしいと思います。
 また、そこに地域の方が学校現場の必要に応じて、ゲストティーチャーとして入って欲しいと思います。これは地域によってはすでにすすめられているところも多いと思います。さまざまなプロ、スペシャリストが地域にもたくさんいらっしゃいますから、先ほどの「相互扶助」という考えとも合わせて、地域の子どもたちのために手を貸していただきたいと思います。
 

<地域社会の子育て・共生支援ネットワークづくり>

 わたくしの一番の結論は、子育てと共生支援のネットワークをつくることだと思っています。学校内の教育はもちろんだけれども、学校外の教育も大事にしましょうよと。子どもは学校だけで育つのではありません。子ども会であったり、青少年会館であったり、図書館や美術館や博物館など、さまざまな学びの場で自分のやりたい勉強をできる機会をつくってあげるべきです。すべての学びを学校に集中させるのは無理です。学校は、学校でやるべきことは何かをしっかり考えて、やっていくべきであると思います。
 その地域子育てネットワークづくりには、タテ、ヨコ、ナナメ3つの面があるというのがわたくしの主張です。
 タテのネットワークは、保育園・幼稚園から始まって、小学校、中学校、高等学校などの校種にあわせて、学童保育所や保護機関も含めた、教育機関の情報交換をはじめとした連携です。幼・小の連携や小・中の連携は、すすめられています。
 ヨコのネットワークは、学校と家庭の連携を主軸とするPTA、また町内会や児童館など、地縁関係の連携です。大きな行事をサポートしていただくことも多いと思います。
 ナナメのネットワークは、児童相談所や社会教育施設などの専門機関や各分野の専門家と、校種との連携です。他にもNPO、NGOもありますし、メディアもそのネットワークに属すと思います。教員ではわからないことについても、その専門性を生かして力を発揮していただくことがあります。
 今の社会の学校づくりには、いろいろな力がいるのです。そして、最後は開かれた学校づくり、さらには町づくりとして考えていきましょう。
 最後にちょっと、子どものおもしろい詩を2編紹介します。「何で夏休みがあるか」、小学校1年生の詩です。

  何で夏休みがあるか言うたらなあ

  学校皆ずっとやっとったらなあ

  子どもだけ賢うなって大人抜いてまうやんか

  こんなことを考える子どもがいるのかと、わたくしは吹き出しました。何度読んでも笑ってしまいます。「先生」、小学校2年生の詩です。

   先生は学校では何で怖くて

  家庭訪問のときは優しくするんじゃ  

  言うてみい

  この感覚がよいですね。これを言わせるだけの居場所があるってことなんです。子どもと大人が役割を超えて対の関係を結んでいるではないですか。これが教育の自由でしょう。自由だから子どもの感性が光り、いっぱい出てくるんです。先生もその言葉をたくさん生かしてあげてると思います。いっぱい感動があるのです。そういうものを大事に育てて、感性を磨いて磨いて、理性にしてやっていきたいと思うのです。そこに、価値を見出していきたいと思います。
 現在も、競争をさせて学力を伸ばそうとする考えがいまだ根強く残っています。子どもは競争しただけで勉強する子もいれば、もっとおもしろいからやりたいとか、大人の都合や大人の基準でないものにいっぱい興味をもつ子どもがいるわけです。子どもというのは、何も受験社会に生きるだけを目標にしているわけではないのですから。わたくしたちはこういう子どもの姿に励まされながら、もっと子どもの夢や希望を大事にしていきましょう。


                   講演をする桂正孝さん

意見交流

保護者

 今年、小学校の学習指導要領が変わりまして、「ゆとり教育」からかなりペースの速い授業へと変わったと感じています。勉強量も増え、子どもも親も戸惑いを感じています。これから、中学校、高校、また大学へとすすんでいく中で、親としては詰め込み教育がよいか悪いかというのはわからないですけれども、気になるのはやはり点数というところです。そこで、お尋ねしたいのですが、現在、社会に出るまでに必要とされる力、また社会に出てから必要な力が、若干違っていると感じるときがあるのですが、親としてこのあたりをどのように考えていけばよろしいでしょうか。

桂さん

 グローバル社会、さまざまな変化をする社会に適応するためには、字を読む、計算するなどの基礎学力がもちろん大事です。でも基本学力もものすごく大事になってきました。読解力、科学、それから問題解決能力などです。OECDもPISA調査の次に、もう1つ先の学力を考えています。キー・コンピテンシーと言い、日本語では熟慮、洞察力という意味です。深く考える力というのが一番の中心だと。そのための基礎学力も必要ですし、日常生活で身の回りの問題をどう解決するかという具体的なものさしで、さらに新しい学力観が考えられているようです。わたくし自身、どれがいいよというのは、子どもによっても状況によっても違いますので、これですとは言えません。ただ、自分の人生を自分で切り開くという気持ちを育てたいです。そして、必要なときはいろんな人から学びたいという、柔らかいセンスをもつべきだと思います。子どもたちにはそういう力をつけたいと思っています。

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21世紀をになう子どもたちのために - 育もう 自分らしく生きる力を -

2011/10/08

第58回 愛知母と女性教師の会

 愛教組は、保護者と教員約270人の参加のもと「愛知母と女性教師の会」を開催しました。女性部提案と講演の後、5つの分散会にわかれて「自分らしく生きるとは」「子どものために親として大人としてできることは」などについて話し合いました。

内容

女性部提案「男女が自立し、ともに生きる力をどう育てるか」
-自分らしく生きることを考える実践を通して-

 小学校4年生の実践では、「自分らしさを大切に、互いのよさを認め合って生活できる子をめざして」をテーマに、友だちのよさに気付き、伝え合う活動を通して、互いのよさを認め合い、自分に自信がもてるようになった姿が報告されました。
 中学校1年生の実践では、「互いのよさを認め合いながら、自分らしさを大切にして将来の夢を見つめられる子をめざして」をテーマに、自分自身のよさを見つける活動や職業についての調べ学習などを通して、自分のよさを生かして将来の夢をみつめようとする姿が報告されました。

参加者の声
  • 自尊感情が低いといわれている子どもたちに、自信をもって、自分の力で生きていこうとする力を育てる実践として、互いのよさを知らせ合うというのは、とても有効だと実感しました。(教員)
  • 子どもにはいろいろな可能性があり、固定観念でその幅を狭めてはいけないと気付きました。性別に関係なく、やりたいと思う職業を見つけ、その職業に就くための努力をする子どもになってほしいです。(保護者)

 

講演の概要 「子育ては十人十色」
【講師】女優 石井めぐみさん

講演内容の一部を紹介します。
子育て中のみなさんへ

 子どもはとても素直でスポンジのような心をもっているので、プラスのメッセージを伝えることでよい感情が生まれます。それと同じく、親がどのようにその子どもに向き合うかで子どもの感情もどんどん変化していくのです。
 みなさんがご家族や職場でこの話をしてくださることで、命や子どもの大切さがもっと伝わると思います。今の時代に子どもたちに命の大切さを伝えていくのはたいへんなことですが、わたくしたち一人ひとりがきちんと言葉にすることで、確実に子どもたちに伝わっていきます。子育て中の方は、自分のお子さんをしっかりと見つめてあげてください。それから嫌がらなければ抱きしめてあげてください。もう一度原点に帰って子どもたちをしっかりと愛してあげてください。子育てがんばってください。

参加者の声
  • 子どもの数だけ個性があり、子育ての仕方も違います。子育ては自分育て・親育てであるから、悩みもあるけど「楽しくすればいい」「もっと気持ちにゆとりをもってこれからも子どもに接していきたい」と再確認できた、とてもすばらしい講演でした。 (保護者)
  • 石井さんの講演を聞いて、目の前にいる学級の子も、自分の子も、もっと大切にしたいという気持ちが強くなりました。大切にするというのは、その子のまるごとの姿を受け止めること。よさを見出して、もっとほめていきたいと思います。(教員)


     講演する石井めぐみさん

分散会
「育もう 自分らしく生きる力を」

 女性部提案や講演を受けて、5つの分散会にわかれ、「自分らしく生きるとは」「子どもたちのために親としてできることは」などについて話し合いました。

参加者の声
  • 「自分のよさを知る」ことが大切だと思いました。教員としてその子どものよさを広められる学級づくりをしたり、保護者として存在をまるごと受け止めたりしたいです。大人自身が人間性を高める努力やじっくり時間をかける指導を心がけていきたいです。(教員)
  • 長所も短所もすべて自分らしさ。ありのままを受け入れるために、家庭・学校・地域で温かな雰囲気をつくり、大人がその手本になりたいと思いました。(保護者)

「これから私は!宣言」

 分散会での話し合いの後、意見交換をしながら得たことや思ったことを「これから私は!宣言」としてまとめました。いくつかを紹介します。

  • 一人ひとりの子どもをよく見て、よさを見つけ、心からほめるようにしたい。(教員)
  • 自分自身が新しい世界に踏み出し、挑戦し続ける姿を見せることで、子どもが自分らしさを見つけるきっかけになるとよい。(保護者)
  • 常にプラス思考で子どもを見守っていきたい。「ありがとう」を忘れずに、お互いを認め合い感謝し合って生活したい。(保護者)

アピール採択

 最後にアピール採択委員により、集会アピールが読みあげられ、採択されました。この集会アピール文を11月に教育長に提出しました。

集会アピール

 愛知の母親と女性教師は、「わが子・教え子を再び戦場に送るな」のスローガンのもと、子どもたちの明るい未来を願い、ともに歩んできました。そして半世紀にわたり、この「愛知母と女性教師の会」に集い、子どもたちの健やかな成長を願って、意見交換を続けてきました。
 子どもたちは無限の可能性を秘めています。わたくしたち、親と教師の願いは、子どもたちが未来に夢や希望をもち、瞳を輝かせて生きることです。しかし、さまざまな問題を抱える現代社会の中で、好ましい人間関係が築けない子どもや、自分のよさに気付かず自分に自信をもてない子どもが少なくありません。そして、子どもたちだけでなく、親や教師も心に不安や悩みを抱えて生活しているのです。
 子どもたちは目の前の大人の姿を通して、将来を見つめています。今こそ、わたくしたち大人が、自分らしく輝きながら生きることが大切です。互いを認め合い、それぞれのよさを生かしながら、支え合って生きる社会をつくっていかなければなりません。子どもたちの健やかな成長を願い、すべての大人が力を合わせて子どもたちを育てていきましょう。
 子どもたちがより多くの人々とつながり合い、信頼し合い、ともに生きていくことができるよう、まず、わたくしたち大人が手をとりあい、支えていこうではありませんか。

語り合いましょう
   子どもたちが生きる 未来の姿を

育んでいきましょう
   いきいきと 自分らしく生きる力を

築いていきましょう
   人と人とが手をつなぎ合い、お互いを認め合うことのできる社会を

 21世紀をになう子どもたちのために、人と人とが心を結び合い、ともに生きる社会を実現していくことをここに誓います。

2011年10月8日
第58回 愛知母と女性教師の会

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子どもの心とからだの健やかな成長をめざして - 適切な心のケアのすすめ方 -

2011/08/20

第30回 愛教組女性部養護教員研究集会

 愛教組は、県内養護教員と単組(支部)の女性部長の参加のもと、愛教組女性部養護教員研究集会を開催しました。「子どもの心とからだの健やかな成長をめざして-適切な心のケアのすすめ方-」をテーマに基調提案・意見発表・講演を行い、学習を深めました。

内容

基調提案「養護教員をとりまく情勢と取り組みについて」

 子どもたちが安心して保健室を訪れることができ、養護教員が一人ひとりの子どもにきめ細かな対応をするためにも、複数配置の拡大にむけ、今後もねばり強く取り組んでいきます。妊娠した養護教員の負担軽減措置については、現場の実態に合った制度となるよう、充実にむけて関係機関に働きかけていきます。

意見発表

  • 本年度、妊娠した養護教員の負担軽減措置を活用した組合員から、健康診断当日だけでなく準備や片付けも手伝っていただき、たいへん助かったと聞きました。しかし、1日4時間以内では、どうしても補助に入っていただけない時間ができ、体に負担を感じたそうです。非常勤の方の1日の勤務時間を長くしていただければと思います。
  • 小学校ではスクールカウンセラーに来ていただける時間が限られていて、いざというとき十分な対応ができないという現状があります。相談を必要とする子どもや保護者は年々増えてきているので、スクールカウンセラーの増員を望みます。
  • 複数配置校では、救急処置のために来室する多くの子どもたちへの対応と並行して、個別に対応が必要な子どもへの支援も充実させることができます。一人ひとりの子どもに、きめ細かな対応をするためにも複数配置基準の引き下げと既配置校への継続保障を強く要望します。

講演の概要「災害・事件・事故発生後の子どもの心のケアについて」
【講師】中京大学心理学部教授 坂井 誠さん

穏やかな対応を

 東日本大震災の後、被災した子どもの心のケアが注目されていることとかかわって、トラウマやPTSDなどのことがちょっとしたブームのように扱われている。いろいろな情報が一度にたくさん入っている状態だと思うが、情報はきちんと整理し理解してもらいたい。トラウマに対する支援は、ことさら落ち着いて、安全感、安心感を与えるものでなければならないので、しっかりと自分のものにしてほしい。
 これから30年の間に80%を超える確率で東海地方に大きな地震が起きると言われている。そのとき多くの学校は避難所になり、教員は必ずかかわらなければならなくなる。自分たちも被災者であると同時に、支援する側にもなる。そのような状況の中でも、普段の職務と同様に、子どもたちに穏やかな対応をすることが必要である。

トラウマ(心的外傷)とは

 アメリカでのDSM診断基準によると、トラウマとは、「死ぬ、または重傷を負うような出来事、あるいは自分や他人の身体の保全に迫る危険を体験し、目撃し、または直面したことで心の傷となってしまうこと」となっている。これは極めて主観的で、人によって受け止め方が違うということを理解しておきたい。

PTSD(外傷後ストレス障害)の診断基準

 トラウマを経験した人が示す症状は主に次の3点である。この3つの症状が、4週間以上続いているときにPTSDと診断される。
(1)再体験反応
 自分では意識していなくても繰り返される想起や夢、フラッシュバックによって、トラウマになっているできごとが再び起こっているかのように感じる苦痛な体験。例えば、プールや風呂の水から津波を想像して、苦痛を感じるといったこと。
(2)回避と麻痺
 回避は、トラウマと関連した思考、感情、会話を避けたり、トラウマを想起させる活動や場所、人物から逃げたりすること。例えば、地震や津波の話をしない、海辺へ行かないといったこと。回避が続くとPTSDに移行しやすい。麻痺は、さまざまな活動への意欲の減退、孤立感、感情がフリーズした状態。
(3)過覚醒反応
 異常に興奮が続いている状態になり、入眠または睡眠維持が困難になる、感情が過敏になりいらいらする、突然パニックになるといった状態。

災害時のストレス

 災害時には、以上のようなトラウマによるストレスだけでなく、喪失のストレスがある。身内を失うこと、家を失うことなどによるストレスがこれに含まれる。その後、日常生活上のストレスがじわじわと襲ってくる。被災直後の、眠る場所、食べるもの、着るものなど衣食住の不足が少し落ち着いてくると、避難所でのプライバシー確保の問題とともに、仕事がない、住むところがないといった、その後の生活の問題が大きな不安になる。

学校でのケア 

 震災にあった子どもたちには初期から適切に対応する、そしてPTSDにせず、外傷後の反応として正常の範囲内に収められるようなかかわりをめざしたい。そのためには、情報を収集して、この子どもはどんな子どもかということを知り、普段と様子が違うことに気付き、早期に専門機関につなぐ、健康観察アセスメントが大切である。

かかわりの基本的態度

 心のケアという観点で被災後の子どもにかかわるときの基本的態度を紹介したい。
 まず、傾聴し、感情を受け止めること。「つらかったですね」「よくがんばりましたね」と気持ちを受け止め、穏やかに接したい。被災した人は、一人ひとりそれぞれ事情を抱えているが、あまり特別視することなく、普段と変わらない対応をしていくほうがよい。しかし、決して孤立しないよう、一人ぼっちにならないよう「あなたのそばには、わたしがいますよ」と安心感を与えることが大切である。
 それから、自責感を和らげること。生き残った人に罪悪感があるような場合、「あなたが悪いのではありません。自分を責めないで」と伝えていくことは絶対に必要である。

支援者のセルフケア

 災害後は支援者の誰もが無理をしがちになる。意図的に生活リズムを保ち、休養・睡眠を十分にとり、そして仲間どうしで互いをねぎらい、できれば気分転換をし、支援者自身の健康を守ってほしい。

参加者の声
  • 「穏やかな対応」という言葉が心に響きました。日々の生活の中で、心がけていきたいです。
  • 「教員は支援者であり、被災者にもなり得る」という言葉を聞き、自分ならどうするか、じっくりと考えてみたいと思いました。


        講演する坂井誠さん

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子どもの貧困と教育の機会均等 -就学援助・学校給食から考える- (早稲田大学大学院非常勤講師 鳫咲子さん)

2011/05/10

~第28回教育改革拡大学習会より~

 第28回愛教組教育改革拡大学習会では、早稲田大学大学院非常勤講師の鳫咲子さんをお招きし、講演会を開き ました。いつの時代でも、子どもたちをとりまく現状をしっかりととらえ、学校・家庭・地域がそれぞれ連携を強化し、地域ぐるみで子どもたちを育てる認識を 深めていくことが必要です。今後わたくしたちが取り組むべき教育改革運動の方向性について学習を深めました。

就学援助は、どういう制度か?

 憲法第26条の教育を受ける権利がもととなっている現在の義務教育無償制の内容は、公立小中学校における授業料無償、小中学生の教科書無償の2つしかな い。それ以外でいろいろなお金がかかる部分を教育の機会均等の理念で保障するため、教育基本法第4条、学校教育法第19条がある。また、直接、就学援助の 根拠になっているのは、就学奨励法と呼ばれる法律の第2条、学校保健安全法第25条、学校給食法第12条である。これらの法律では、市町村が行う就学援助 に対して、国は予算の範囲内において、必要な経費の一部を補助すると定められている。
 生活保護(教育扶助)には、全国共通の認定基準があり、国庫補助は4分の3である。
 就学援助制度の対象者には、生活保護を受けている要保護者と、要保護者に準ずる程度に困窮している準要保護者があるが、全国共通の認定基準は設けられておらず、自治体による差が大きい。

就学援助の現状

 就学援助を受ける子どもは、約10年で人数・割合ともに約2倍に増加している。09年度、全国で149万人の子どもが就学援助を受けており、全国の公立小中学校児童生徒の14.5%、つまり、全国で、7人に1人の子どもが、貧困状態であるといえる。
 愛知県においては、09年度、60,460人が就学援助制度の対象者であり、公立小中学校に通う子どもたちの総数に占める割合は、9.4%である。これは、全国平均の14.5%に比べて、低い割合である。
 就学援助を受ける子どもが増えた大きな要因は、企業の倒産やリストラなどによる親の就業環境の変化と、離婚などによる一人親家庭の増加である。

義務教育を受けるための費用

 子どもの学習費は、学校内の活動だけで年間1人あたり、中学生で約18万円、小学生で約10万円である。その費用の中で大きく占めるものは、給食が実施されている学校では給食費となる。中学校では、制服などの通学関係費や部活動費なども大きくなる。
 文部科学省の調査によると、全国の給食費未納は07年において、99,000件であり、全体の1%が給食費未納となっている。未納総額は年間22億円と なっている。その理由の大半が保護者としての責任感や規範意識の低下といわれているが、実際は、経済的問題・社会的孤立など重複した困難を抱えて、子ども に十分な関心をむけられなくなっている可能性が高い。また、保護者の経済的な問題の中には、支援制度を知らず、受給資格を有しながら、申請を行っていない 場合がある。

子どもの貧困への政策の対応と自治体の運用の差

 三位一体の改革により、05年度以降、準要保護者に対する国庫補助が廃止され一般財源化された。文部科学省の調査によると、05年度以降、準要保護者の認定基準の引き下げ、援助支給額の減額が行われている市町村がある。
 就学援助制度の運用については、制度案内書を全世帯に配付したり、案内書に所得基準額を明示したりする自治体がある一方、制度案内書を配付・広報しない だけでなく、事務取扱要綱や手引きすらない自治体もあり、大きな違いがある。この違いには、市町村の行政能力が大きく影響している。

子どものための政策を考える

 子どものための政策においては、シビル・ミニマム(最小限度の生活基準)を確保する上で、地域格差をどう考えるかが重要になってくる。教育の分野は、地 方分権が他の分野よりも早くすすんでいるため、各自治体の格差が大きくなってしまっている。また、子どもの権利条約第28条で定められているように、すべ ての子どもたちに高校卒業までの教育を保障しなければならない。そのためには、高校版就学援助が必要である。このような政策を考える上では、それぞれの子 どもや家庭の必要に応じた適切な情報提供と関係者(学校・福祉部局・NPOなど)の連携、情報の共有が必要である。

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