子どもを中心にすえた教育研究を

第68次愛知県教育研究集会

2018/10/27

 10月27日、保護者と教員、働く仲間、約1600人の参加のもと、第68次教育研究愛知県集会が開催されました。
 全体集会の後には、「子どもたちの健やかな成長をめざして」をテーマに特別集会が行われました。特別集会では、早稲田大学教育・総合科学学術院教授の菊地栄治さんから、「私たちはどう生きるか-子どもたちの『ゆたかな学び』をデザインする-」という演題で記念講演をいただきました。
 また、26分科会では、子どもたちを中心にすえた実践報告と活発な討論が行われました。

 

 

基調報告より

分科会

1.語教育文学その他作文その他)
2.
外国語教育
3.
社会科教育小学校中学校
4.数学教育算数数学

5.理科教育物理・化学生物・地学
6.生活科教育

7.美術教
8.音楽教育
9.技術教育
10.家庭科教育
11.保健体育体育保健
12.自治的諸活動と生活指導小学校中学校
13.能力・発達・学習と評価
14.特別支援教育
15.進路指導
16.教育条件整備
17.過密・過疎、へき地の教育
18.情報化社会の教育
19.読書・学校図書館

20.合学習

 

基調報告より 

 これまでの67次にわたる教育研究において、わたくしたちは夢と希望あふれる教育の創造をめざし、子どもたちを中心にすえ、それぞれの学校・地域の特色を生かした、自主的・主体的な教育研究活動を着実に積み重ねてきました。また、保護者への意識調査を実施し、今日的な教育課題を明らかにするとともに、各地域で教育対話集会などを行い、保護者や地域の方々と意見交換をする中で、子どもたちの「生きる力」を育む取り組みについての合意形成をはかってきました。そして、各学校では子どもたちの健やかな成長を願い、日々教育活動に取り組んでいます。

 さて、現在、国によるさまざまな教育改革が推しすすめられ、学校現場にも大きな影響を与えようとしています。とりわけ、本年度から、新学習指導要領の移行措置により、小学校高学年では外国語活動の時間数が新たに年間15単位時間加えられ、中学年にも年間15単位時間の外国語活動が導入されました。現在は、「総合的な学習の時間」及び総授業時数から減じることができるとされていますが、小学校の週あたりの授業時数はすでに限界がきていることから、2020年度からの全面実施による年間で35単位時間の授業時数の増加については、子どもたちへの大きな負担となることが懸念されます。また、学習内容についても、「読むこと」「書くこと」が学習指導要領に明記され、中学校英語教育の前倒しとなることや、知識習得そのものが目的になることなどが危惧されます。子どもたちに必要なのは、英語力を身につけることだけではなく、自ら課題を見つけ、主体的に判断し、行動できる「生きる力」であり、それは、ゆとりとふれあいを保障する教育課程の中で育てていくべきものであると考えます。

 わたくしたちは、あくまでも学習指導要領を大綱的基準としてとらえ、未来を担うすべての子どもたちのために夢と希望あふれる教育を創造する取り組みを継続し、学校現場からの教育改革を推進していかなければなりません。そのためにも、基礎・基本の確実な定着はもちろんのこと、子どもたち一人ひとりが学ぶ意欲をもち、自らすすんで取り組む、より質の高い学びを大切にしていかなければなりません。また、人・自然・文化などとかかわり合い、地域に根ざした体験活動を中心にした学習を構築し、学校・家庭・地域の連携をよりいっそう強化し、協働して、地域ぐるみの教育を推しすすめていかなければなりません。

 今次の教育研究活動においても、ゆとりとふれあいの中で「わかる授業・楽しい学校」の実現をめざし、「学びの質をより追究するとともに、子どもたち一人ひとりの意欲を大切にし、学ぶ喜び・わかる楽しさを保障する教育課程編成活動をすすめる」「学校・地域の特色を生かし、家庭や地域社会と協働をはかりながら、人・自然・文化などとのかかわりを大切にした創意あふれる教育課程編成活動をすすめる」の2点を研究推進の重点として提起しました。わたくしたちがすすめる教育改革は、日々の教育実践を積み重ね、その中で成長していく子どもたちの姿で示すべきだと考えます。各分科会においては、実践研究の報告をもとに、活発な議論を展開するとともに、その成果を各教組・分会に持ち帰り、還流をはかっていただくことを大いに期待します。

 また、本日の特別集会では、子どもたちの現状や教育をめぐる情勢をふまえ、「私たちはどう生きるか -子どもたちの『ゆたかな学び』をデザインする-」と題して、記念講演を行います。未来を担う子どもたちの健やかな成長をめざして、学校・家庭・地域で大切にしていきたいことなどについて共通理解をはかり、それぞれがいかに協働して子どもたちを育てていくか、ともに考えていきたいと思います。

 最後になりましたが、この教育研究愛知県集会が愛知の教育のさらなる推進のため、そして何よりも目の前の子どもたちの健やかな成長のために、実り多いものとなることを祈念し、本集会開会にあたっての基調報告といたします。

 

分科会    

国語教育(文学その他)

 説明的文章6本と、文学的文章17本のリポートが報告された。目の前の子どもたちの実態を見つめた価値ある実践が多く、どのように読む力をつけるべきかについて、報告されたリポートをもとに討論が展開された。 

国語教育(作文その他)

 作文(綴り方)の教育8本と、言語の教育3本、音声表現の教育12本のリポートが報告された。子どもたちの実態を見つめ、どのような子どもを育てるのか、文字言語・音声言語のよさを生かして、どのような力を育てていくのか討論が展開された。

外国語教育 

 「思いを伝える・伝え合う活動」「4技能の統合や評価のあり方を工夫した活動」「わかる・楽しい授業づくりのための工夫」の3つを討論の柱に、小グループによる発表と討論が行われた。その後、各グループで設定された「全体討論への問題提起」をもとに、全体で討論と意見共有が行われた。
 3つの小グループでは、小学校と合同授業を行った中学校の実践や、Can-doリストを設定し、具体的な到達度目標を明らかにして子どもたちの力を育てる実践などが報告された。子どもたちが互いにかかわり合いながら、主体的に学習活動に取り組むための手だてが数多く報告され、活発な討論が行われた。 

社会科教育(小学校)

 地域素材の教材化や、他者とかかわる学習を取り入れることによって、主体的に社会参画しようとする意欲を高める実践が報告された。討論では、根拠をもとにした話し合い活動を通して育てたい力や、社会参画する力を育成するために必要な社会認識について熱心に話し合われた。

社会科教育(中学校)

 子どもたちが主体的に取り組む学習活動のあり方についての実践や、社会に対する見方・考え方を深める学習活動のあり方についての実践が報告された。
 主権者として学ぶ意欲や社会参画の意欲を高め、子どもが主体的に課題を追究した実践や、地域素材をはじめとする身近な素材を教材化したり、対話的な学習活動を取り入れたりして子どもの社会認識を深めていく実践が多く報告された。 

数学教育(算数)

 「主体的な学び」「思考力・判断力・表現力の育成」「わかる・できる指導の工夫」「学びあう力の育成」の4つの柱立てで、実践の報告が行われた。
 子どもたちが、主体的にかかわり合う姿をめざした実践、わかる喜び・できる楽しさを実感させるための手だてを工夫した実践、筋道を立てて考え、表現できるように工夫した実践などが報告された。どの報告も子どもを中心にすえ、子どもの力を伸ばしたいというねらいを感じることができるものであった。

 数学教育(数学)

 「思考力・判断力・表現力の育成」「主体的・対話的な学び」「学びあう力の育成」の3つの柱立てで、実践の報告や討論が行われた。自分の考えを深めることや、表現する力を高める子どもの育成をねらいとした実践をはじめ、グループ学習やペア学習などの学習形態を工夫した実践、数学的活動を通して子どもの自主性を引き出した実践など、多岐にわたる実践が報告された。 

理科教育(物理・化学)

 28本のリポートについて4つの領域ごとに、「子どもの理科的な資質・能力の把握や育成に役立てる評価の利用」「自然の事物・現象を、量的・関係的な視点や質的・実体的な視点でとらえ、多面的に考えさせる指導方法」の2観点に重点をおいた報告と討論を展開し、活発な意見交換が行われた。

理科教育(生物・地学)

 自然事象を探究的にとらえさせ、問題解決に取り組むことができるよう工夫された授業実践、モデル教材を用いて子どもの理解が深まるようにした授業実践、体験活動を取り入れ、自然の仕組みをとらえさせようとする授業実践などが報告された。
 討論では、「子どもの理科的な資質・能力を育成するための理科指導のあり方」「身近な自然や、生命の大切さを取り入れた単元構想の充実」の2観点を中心とし、「子どもの自然認識を有意味に発展させる理科学習の開発・編成のあり方」「自然の事物・現象を、科学的に探究する方法を用いて多面的に考えさせる指導方法」を加えた4観点を柱立てに意見交換がされた。 

生活科教育

 スタートカリキュラムの実践、学校探検を通して身近な人とのかかわりを深めた実践、栽培活動を通して植物への思いや願いをもち思考を深めた実践、遊びやおもちゃづくりを通して自然や人とのかかわりを深めたり、気付きの質を高めたりした実践、遊びやおもちゃづくりを通して対話し、思考を深めたり気付きの質を高めたりした実践など、地域の自然や素材、人々を生かして、子どもたちが主体的に学習する実践が報告された。
 全体的な特徴として、対象へのかかわりを積極的に行い、子どもたちの思いや願いの実現をはかった実践、また、伝え合いや交流活動など対話的な活動を位置づけ、思考を深め、気付きの質を高めた実践が多くあった。
 生活科を通して子どもたちの自立の基礎が養われていく確かな実践がすすめられていることが感じられた。 

美術教育

 「美術教育を通して子どもたちに伝えたいこと~子どもたちのゆたかな学びのために~」をテーマに実践報告や討論がすすめられた。
 総括討論では、図工・美術教育から何を学ばせるのかという議論を通して、本年度のテーマについて考え、深めることができた。
 図工や美術の授業に対して子どもが抱える不安や悩み、思いを受け止め、教員がどのように支援していくとよいか話し合われた。また、子どもたちの将来を見据えて、義務教育期間の小・中学校がどのように連携して、子どもの表現力を高めていくのか、美術教育では、将来にむけてどのような力を育んでいくのかという議論を通して、わたくしたち美術教員が常日頃考えなければならない課題を確認することができた。 

音楽教育

 「9年間の見通しをもって感受する力と技能を高めていく学習活動や指導の工夫」「限られた授業時間数の中で行う技能面での支援方法」をテーマに討論をすすめた。仲間と主体的、対話的にかかわり合いながら表現の工夫をする実践が多く報告され、音楽的要素や共通事項をとらえるための目標設定をすることの大切さについて深く考えることができた。
 また、DVDによる実践報告を行った。めざす子ども像を明確にし、工夫を凝らした手だてによって変容していく子どもたちの様子がよくわかるものであった。

技術教育

 生活の中で技術化が果たす役割について体験的に学ぶ実践が多く報告された。「材料と加工」では、根拠をもって最適な加工法を選択できる力を高める実践や、実践的・体験的な活動を通して、新たな探究の視点をもとに考えを深めることをめざした実践が報告された。また、対話的な学びの中で、課題解決をめざし、知識や技能を習得する実践が多く報告された。「生物育成」では、グループ活動を中心として、他者とかかわる中で課題解決をめざした実践が報告された。「情報」では、身近な教材を提示することで意欲を高め、主体的に問題を解決する力の育成をめざした実践などが報告された。技術教育全般では、カードゲームを使用したガイダンス授業で、課題解決の意識づけを行った実践や、系統的な学びの実現をめざした実践が報告された。 

家庭科教育

 「知識・技能の習得」「生活を追究する」「現代的な生活課題」「家庭や地域、人とのつながり」の4つ柱立てで、実践の報告が行われた。子どもの生活の中から課題を見つけ、学びを深めていく実践が多く報告された。
 総括討論では、「これからの家庭科教育~生活の本質を理解させる道すじをつくるための手だてとは~」について討論が行われた。 

保健体育(体育)

 「体育でどのような子どもを育てるか、自ら考え行動する子どもをどう育てるか」を大テーマに、次の2点を研究主題として、発表・討論が行われた。
(1)かかわり合いを大切にした授業づくり
(2)学年に応じた体力向上と技能習得
 どのリポートも、仲間とのかかわり方や学年に応じた体力向上と技能習得に関して、さまざまな工夫のある実践が報告された。
 討論では、仲間とかかわり合うために有効な手だてや、子どもの発達段階に応じてどのような技能を習得させるべきかについて活発な意見交換がされた。また、技能習得のためのよりよい指導法などについて、活発な意見が出された。 

保健体育(保健)

 「子どもが生活の主体となるための健康教育」をテーマに、さまざまな健康課題に対応するために、教材・教具を工夫した実践、子どもの主体的な活動を中心とした実践、学校内・外との連携を深めた実践などが報告された。報告を通して、健康に対する意識の高まりや、健康課題の解決にむけた実践力が着実に育ってきている様子が感じられた。 

自治的諸活動と生活指導(小学校)

 「たくましく生きる子どもを育てよう」をテーマとして、活発に討論された。
 子どもたちがよりよい人間関係を築くために、学級や学年、異学年交流を通して活動した実践が多く報告された。また、子どもたちが自分自身を見つめ、自ら課題を見つけて取り組むことで、達成感や満足感を味わい、豊かな人間性を身につけた実践も報告された。さらに、学校・家庭・地域が連携して一人ひとりの子どもを支援した実践なども報告された。
 これらの実践報告をもとに、子どもたちの活動のあり方や意義、子どもたちの実態のとらえ方、それらをふまえた教員の支援のあり方について熱心な討論が展開された。 

自治的諸活動と生活指導(中学校)

 「たくましく生きる子どもを育てよう」をテーマに、活発に討論された。
 子どものやる気を引き出すために自己存在感を大切にした実践や、学校行事を生かしながら、個と集団の力を高める活動、家庭・地域と連携した活動を通して、子どもの成長をめざした実践が報告された。
 これらの実践報告をもとに、子どもたちの実態をふまえた支援のあり方について議論が深められた。  

能力・発達・学習と評価

 自分の思いを的確に伝え、考えを深めることができる子どもの育成をめざして、話し合いやかかわり合いの工夫を取り入れた実践や、物事を多面的・多角的にとらえることで考えを広げる実践、身体表現や美術作品で自分の思いを伝える工夫を取り入れた実践が報告された。
  また、主体的に学ぶ子どもの育成をめざして、書く活動での正しい姿勢や字の形を大切にする実践、「ピースアロー」などの思考ツールを取り入れた実践、ICT機器を効果的に活用した実践、発問を工夫した実践が報告された。

特別支援教育

 「豊かに生きるための力を育む」というテーマのもと、21本のリポートが報告された。
 子どもの教育的ニーズを的確に把握し、学習意欲を高めるような教材・教具を工夫した実践や、キャリア教育と関連した実践、自己理解や他者理解に焦点をあてた実践、人とかかわる力やコミュニケーション能力を高めさせるための実践などが報告された。

進路指導

 基礎的・汎用的能力の育成に重点をおいたキャリア教育の実践が多数報告された。
 各教科、総合的な学習、特別活動の実戦では、人間関係形成能力や自己理解能力、課題対応能力の育成をめざした活動を、子どもの発達段階に応じて設定することが効果的であることが確認された。また、小学校と連携したキャリア教育の重要性について意見交換がなされ、中学校だけではなく、小学校での取り組みを生かした継続的がキャリア教育が必要であると確認された。さらには、朝のSTなど、日常生活の中で取り組めることから、職場体験学習や老人施設への訪問など、地域と連携した取り組みまで、幅広い実践が報告された。
 助言者からは教育活動全般を通したキャリア教育の重要性が提起され、学校内外における系統的な取り組みの大切さが確認された。 

教育条件整備

 「子どもの学習権の保障のために」を主題に、ICT教育にかかわる教育条件整備や、外国人児童生徒を支える教育条件整備についての実践が報告された。
 ICT機器を充実させるため、現状の機器の整備や利用状況の調査結果と今後の課題が報告された。
 外国にルーツをもつ子どもたちの学習権を保障し、一人ひとりの希望や個性に応じた学習活動をすすめるために必要な教育条件整備が報告された。

過密・過疎、へき地の教育

 どの学校の報告も、身につけさせたい力を明確にしているという点、小規模校での実践である点、地域の特性をどのように生かしていくかという点が取り上げられていた。
 小規模校では、少人数のため、さまざまな考えに出会う機会が少なく、自分の考えを表現することが苦手な傾向にある。人数の多い集団での活動になったときに不慣れな部分が見られることもある。
 それらをふまえ、他者と考えを伝え合う活動を通して、自分を表現する力を高める実践が報告された。また地域の「ひと、もの、こと」にかかわることでふるさとに愛着を持つ実践が報告された。

情報化社会の教育

 プログラミング教育における、教育用コンテンツの効果的な活用を通した実践や、各教科において、ICT機器をどのように活用するかについての実践などが報告された。また、子どもたちが情報モラルについて対話しながら考える実践や、子どもたちの意見交流を通して、情報活用能力を高める実践が報告された。

読書・学校図書館

 子どもたちが自ら本を手にとり、読書の幅を広げたり学びを深めたりすることめざした実践が報告された。いずれも、読書活動や調べ学習を通して、人と人とをつなぐとともに、学びを支える場となる学校図書館が担う役割の重要さや多様性が感じられる実践であった。
 討論では、それぞれの発達段階に応じた調べ学習の指導の仕方や、授業での学校図書館の活用の仕方、読書活動や環境整備の工夫などについて、活発な意見交換がなされた。

総合学習

 身近な事象や今日的課題をテーマとして取り上げ、子どもの探究的・協働的に学ぶ姿を期待した実践が多く報告された。子どもが課題をより「自分事」としてとらえるための地域素材や、ゲストティーチャーの効果的な活用の仕方、自他の考えや意見を可視化させるための思考ツールの活用の仕方などが紹介された。子どもが主体的に活動し、いきいきと課題解決していく姿から、執筆者の子どもへの願いや愛情が伝わってきた。

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