子どもたちの健やかな成長を

21世紀に必要な学力を育てる学校と家庭の連携のあり方 -第62次

2012/10/20

  特別集会では、早稲田大学大学院教職研究科教授の田中博之さんを講師としてお招きし、記念講演、参加者との意見交換を行いました。
 田中さんからは、「21世紀に必要な学力を育てる学校と家庭の連携のあり方」と題してお話をいただきました。知識だけの学力ではなく、これからの時代を生きる子どもたちにとって、本当に必要な学力とは何であるかについて、ご示唆をいただきました。本集会を通して、子どもたちの健やかな成長のために、学校・家庭・地域が連携することの重要性について、再確認しあうことができました。

記念講演 「子どもたちの健やかな成長をめざして」
―21世紀に必要な学力を育てる学校と家庭の連携のあり方―

講師 早稲田大学大学院教職研究科教授 田中 博之 さん
<家庭学習力の育成>

 本日のテーマは「21世紀に必要な学力」となっています。大きなテーマですが、まずは、しっかりと学校と家庭との連携をはかっていただくことが大切であると思います。

  「家庭の教育力の低下」という問題に対しては、「家庭の子育ての負担を増すようなやり方はよくない」、「家庭の教育責任の強調は教育格差につながる恐れがある」という声があります。しかし、宿題や予習・復習、読書などの学習習慣を身につけることや、食事や睡眠、そして遊びも含めた基本的生活習慣の確立などについては、各家庭の考えによるところが大きいというのは事実です。加えて、子どもがよりよい学校生活を送るためには、何らかの支援が必要となってくる家庭があることもまた事実です。

 東京都のある区の中学校で行った調査では、クラスの2割近い子どもたちが、家庭での学習時間が読書の時間を含めても0分でした。これはたいへん深刻な問題であると考えます。

 そこで、まずは、家庭学習力と教科学力の関係を調べました。家庭学習力とは、家庭での規則正しい健康的な生活習慣の基盤の上に、子どもが家庭での宿題、予習・復習、そして自主的学習などを計画的かつ自律的に行うために必要な能力や態度と定義します。

  【資料1】を見てください。これら11項目の一つ一つは基本的な内容です。そして、これらのアンケートに子どもたちが答え、その結果と教科学力との関係を表したものが【資料2】になります。【資料1】の②のように、生活リズムが確立している子とそうでない子とでは学力に違いがあるのです。

資料1

資料2

 また、③④のように、自分の苦手を見つめ、やり遂げる目標をもっている子は学力が高くなる傾向もみられます。さらに、⑪のように、「将来、こんな仕事に就きたい」と、自分の将来や進路に関して夢や希望をもって勉強することも大きな力となります。これらは、教科学力の「基礎」(知識)のみではなく、「応用」つまり、21世紀に必要な学力にも結びつくと結果に表れています。以上のことから、子どもたちの家庭学習力を向上させることが課題であると調査の結果から見えてきました。

  【資料3】を見てください。これは「家庭学習教育力モデル」の構造図です。学校や家庭を、地域・社会、教育行政も含めてサポートをし、さまざまな条件整備をしていくことが大切です。子どもが家庭でしっかりと学習する習慣づけを、この三者の働きかけを中心に行っていかなければなりません。

資料3

 それでは、どのように働きかけを行っていけばよいのでしょうか。家庭学習力の向上をめざして、学校と家庭が連携しているいくつかの事例を紹介します。

 まずはじめは、目標にむけての決意を子どもたち自身が定めることにより、家庭学習力を向上させる事例です。先ほども申しましたが、こつこつと目標を決めてがんばる子どもは学力が伸びやすいという調査の結果も出ています。ここで大切なことは、まずは子どもが自分で決意や目標を立てることです。そして、それに対して、保護者の方々もきちんとできているか声かけをして確認したり、できたらほめてあげたりすることです。さらに、子どもが書いたものを発表させたり、教室に掲示したりすると効果的です。

 また、各教科別に「ご家庭でこんな家庭学習をしてください」などのプリントを配付する学校も多いかと思われます。これをどこかに置いたままにしておく家庭と、冷蔵庫などの目に付くところに貼る家庭とでは違いが出てきます。家庭学習の望ましいあり方を学校の先生方がきちんと教え、子どもが目標を宣言し、保護者も常に見守る。これを続けていくと家庭学習の習慣が身についてくると思います。

 次に、「自主学習ノート」を用いた事例です。ある学校では、ノートにグラフを貼らせ、そこから読み取った事柄を子どもたち自身の言葉でノートに記入をしていきます。これでめざすものは、いわゆる21世紀型の学力といわれる、思考力・表現力の伸長です。さまざまな資料を自分なりに読み取り、まとめていく力が今、必要になっており、文部科学省はこれを「活用型学力」と言っています。このような内容が、新しい教科書に入ってきました。統計資料を読み取って、自分の考えをグループで討論した後に、ワークシートに50字くらいでまとめるといったものです。このような「活用型学力」につながる思考力や表現力を身につけるため、家庭学習・自主学習にこつこつと取り組ませている学校が少しずつ増えてきました。もちろん、先生方が自主学習用にいろいろな資料を渡して「これを切り貼りしてやってごらん」などのように仕向けなければ、これらの力は育ちません。加えて、活動させた後の先生方の励ましの朱書きがとても重要になってきます。昔から日本の先生方は朱書きを行っており、これは日本のとてもよい習慣です。海外ではこのような朱書きはありません。「先生が見てくれている、うれしいなあ」と、子どもと先生の心が通じ合う瞬間です。ほめて育てる教育の大切な部分であると考えます。

 宿題の話をしてきましたが、宿題で一番いけないのが「丸投げ」です。配付して「やっておきなさい」だけではいけません。宿題を出す際に「今日の宿題は、今日の難しいところを繰り返し練習する復習プリントだから、しっかりやってくると明日の学習がわかりやすくなるよ」などと一言添えることで、子どもの意欲は変化しますし、学力にもつながるとの調査結果が出ています。さらに、保護者に家庭学習の仕方について、保護者会やPTA総会などで説明すると、さらによいとされています。家庭学習において、ただプリントの反復練習だけでなく、新聞の社説を読ませるとか、新聞のコラム記事をまとめて感想を書かせるなども効果的です。

 このようなアイディアを直ちに全部はじめるというのは難しいかもしれませんが、保護者と学校が連携してこつこつとすすめると、結構大きな効果が出てくるということで、ご提案させていただきました。

 

<家庭学習力向上プロジェクト>

 次はある中学校の事例です。この学校には数年前に家庭学習力向上プロジェクトに取り組んでいただきました。その中で生徒会の学習委員会が自主的に取り組んだ活動を紹介します。

 子どもたちが自主的な家庭学習の時間をクラスごとに集計していき、その結果を意識づけのために一覧表にしました。これだけをやらなければならないというものではなく、家庭学習力向上月間と称して、あくまでも自主的に取り組む活動です。集計した数値結果の良し悪しではなく、一つの手だてとして子どもに意識化させることが目的です。

 また、「総合的な学習の時間」を利用して、家庭学習力向上プロジェクトを実行することもできます。例えば、先ほどの【資料1】のアンケートを最初に子どもたちにやってもらいます。それに加えて、ある日の1日の家庭学習や家庭での時間の過ごし方を円グラフに表します。そして、1か月後にどのように変化するのかを確認するプロジェクトを授業の中で行います。この時には、保護者にもしっかり協力してもらい、先生も声かけをし、友だちどうしで話し合って取り組むことが大切です。一人ひとりに、よさや個性がありますから、個々のスタートラインは別にどこでも構いません。大切なことは伸び、つまり成長です。友だちどうしで家庭学習や生活習慣をよりよくしていくための知恵を出し合い、そのアイディア交換会を行います。「伸びてよかったね」「すごいね」などほめほめ合戦をするのです。こういったことを少し行うだけで、子どもの意識は高まります。一人でやるよりもグループとか生活班など集団で支え合うということです。友だちと一緒に決めた計画であれば、やりがいもあります。友だちと支え合い、励まし合う、時にはダメ出しもする。でも、ほめ合っていく。学校に行けばほめてくれる仲間がいるんだ、助けてくれる仲間がいるんだと思って取り組むことが大事です。これは、友だちの力と連携した家庭学習といえるでしょう。そして、1か月後に再度アンケートを行い、個々の変容を確かめます。全員が劇的に変容するわけではありませんが、継続して行うことで、「次もがんばろう」などと言いながら家庭学習の習慣が身についていくというわけです。

 学校現場では、授業に必要な持ち物を忘れ、朝から友だちに借りるために奔走する子どもの姿がみられます。忘れ物をした子どもの対応で授業の開始時刻が遅れることもあります。これを解消するために、各家庭で保護者が点検してあげることもよいでしょう。そして、保護者の総会などで保護者がこの問題を共有し、一体となって考え、「持ち物点検をしましょう」と全家庭に呼びかけていただいてもうれしいものです。細かいと言えば細かいですが、こういったことをきちんと項目立ててやっていくことで、何をすればよいのかを家庭も学校も共通理解することで、協力体制がより充実します。その結果として、学校も家庭もみんなでがんばろう、というような雰囲気が生まれるPTA活動につながればよいと思います。

 

<思考力・判断力・表現力を育てる活用学習>

 ここからは21世紀型の学力についてお話しします。これまでの学校教育に対する批判もあり、今また知識偏重教育になりつつあると感じています。中には教科書を分厚くすればよいなどと主張する人もおり、少し心配しています。しかし、新しい教科書には思考力・判断力・表現力を身につける内容が盛り込まれています。知識だけでなく、自分で考え、表現し、コミュニケーションをはかることができるといった、社会に出てから必要な力、すなわち、「生きる力」が21世紀には必要であるということです。それでは、「生きる力」の育成をめざした新しい授業の形について、小学校の授業を例に取り上げます。

 昨年度から新しい教科書になり、教育が大きく変わってきました。資料を読んで、自分の意見を書き、友だちとグループディスカッションをした結果をさらに発表する授業、すなわち自分で考えて表現できる子どもを育てる教育です。毎日はできませんが、学期に1回ぐらい重点的にやればよいのです。例えば、国語科の授業で、次のような「大豆」についての説明文があるとします。

  「大豆っていうのは本当に不思議で、乾燥しておけば堅い豆です。それを茹でれば煮豆。粉にするときな粉。今度はそれを煮て、固めれば豆腐になります。そこに、いろいろな発酵菌を混ぜると、納豆、味噌、醤油。それから、少し成長させると豆もやしなど、いろいろな姿に形を変えていく。大豆というのは、姿を変えながらわたしたちの食生活を豊かにしているのです」
 古いタイプの教育であれば、読んで理解したら終了、もしくは漢字を覚えて終わりです。理解力や知識、漢字力も大事なので、これだけの授業でも悪いことではありません。しかし、21世紀型の学力を育てるためには、さらなる活動が求められます。姿を変える大豆の説明を読んだ後に、子どもも自ら大豆について調べることが大切です。そして、教科書に載っている模範文の例を参考にし、リサーチレポートを書かせるとよいのです。子どもを作家や表現者にする授業です。従来の教科書ではこのようなページはありませんでしたが、これからは思考力や表現力が必要ということで教科書も変わってきました。大豆はあくまでも一例であり、トウモロコシや牛乳などを調べさせてもおもしろいと思います。

 さて、このような授業があったとしても、家庭の連携なんてどこにあるのかと思われたかもしれませんが、実はこのような調べ学習については宿題としても出ます。例えば、一緒に図書館に行って調べるとか、買い物に行った際、関連する商品を探してみたり、お店の方にインタビューしたりするなど、家庭学習として調べたり、探検に行ったりすることが必要になってきます。保護者としては少したいへんかもしれませんが、子どもたちはこのタイプの宿題は大好きです。少しでもよいので一緒に考えてあげることが子どもの意欲にもつながると思います。

 このように、活用型学力、つまり21世紀型の学力を育てるためには、最初に話した家庭学習力が必要になってくるということがわかっていただけたかと思います。

 

<危機管理能力の育成>

 21世紀型の学力を育成するのに今、一番障害になっていると考えられるのは、子どもたちの人間関係です。本来、支え合ったり励まし合ったりしなければならない子どもたちの関係が、傷つけ合いやふざけ合いになっているのではと指摘されています。そして、この延長線上にいじめ問題があるわけです。いじめを解決することについては、今日の話の中では難しいのですが、いじめを防ぐために4月の学級開きの当初から意識的、意図的に、子どもと先生が一緒になって取り組んでいる事例を紹介したいと思います。

 ある学校では「学校に行きたくないなあ」という子どもがいなくなるように、きちんと年度当初に話し合う時間を設けるようにしています。特に4月は新しい学級になり、楽しみである反面、心配や不安な時期です。この時期に、どんな学級にしたいか、そして、いじめの芽を摘み取るためにみんなでどうすればよいか考え、いじめを止める勇気をもつなどの強い心を育てようとする話し合いをします。その結果を教室の目につく場所に掲示しておき、何か問題が起こったときには、振り返らせます。先生が帰りの会で1分でも2分でも話をすることで、子どもたちは意識するようになるのです。また、自分たちで話し合って決めたことであり、子どもの意識に戻すことができるため、とても有効です。やはり、自分たちで決めたことを常に意識化させる掲示は必要なことであるといえます。

 また、別の学校では、「いじめをなくすために僕たちができること」というテーマでディスカッションを取り入れています。方法としては、自分の意見、そのための取り組み、予想される効果などを盛り込んだ提案書を子どもたちに書かせます。例えば、「悪口を誰かが言っていたら注意しよう」「もやもやすることがあったら『もやもや書きノート』に書こう」「1か月に3回ぐらい、いじめがないか確認する時間をつくろう」など、真摯ですごく真剣な提案です。このような提案を出し合い、ディスカッションを通して、みんなでいじめ防止を呼びかけていく取り組みです。これを国語の授業で取り組んでおり、人間関係の育成や支え合う友だちづくりに生かしています。

 このような活動に取り組んでいる姿を教室に掲示し、学級懇談会でも話題にします。すると、保護者も学校教育に対して安心感を抱きます。そして、「先生、がんばって」と応援するような雰囲気になっていくのです。また、保護者にも家庭で学校での取り組みについての話題をたくさん出していただき、学校・家庭・地域が一体となって子どもたちの健やかな成長をめざしていかなければなりません。

 最後にネットいじめについて、少しふれさせていただきます。今、ネットいじめは、とても残念なことですが広がりを見せています。携帯メールで、いじめに関するさまざまな言葉が飛び交っています。しかも、サイバーパトロールなどに引っかからないように、正しい文字を使わずに当て字を使用することもあり、面白半分にどんどん広がっていくわけです。こうした状況が続くと、ますます学級の中で子どもたちの関係がギスギスしていきます。下手なことを言ったことによって、いじめられる可能性があるのではと考えてしまうので、みんなの前で自分の考えを発表する活用型の授業なんて怖くてできなくなります。そうした状況に陥らないためにも、常に子どものサインを見逃さないようにしなければなりません。いじめを受けている子どもは、のどが渇くのでよく水を飲むようになったり、携帯の着信音を聞こえないように小さくしたりすることもあります。何かあればすぐに相談できる体制を整えておくことが必要です。家庭では、きちんと携帯電話の使い方をアドバイスし、ルールを決めていただきたいですし、学校でも情報モラルやネット安全の教育をすすめてほしいと思います。

 みんなで考えたルールや家庭で決めたルールを子どもの目につく場所に掲示し、学校と保護者が連携することで、子どもをいじめの加害者にも被害者にもしないような教育が生まれていくのではないでしょうか。

 

講演をする田中博之さん

◎ 意見交流

質問者

 活用型の学力という内容についてたいへん参考になり、私の学校にも取り入れていきたいと思いました。さて、新学習指導要領において、お話の中に出てきた活用力を身につけさせるために、「特別活動」や「総合的な学習の時間」の中で、このような取り組みをするとよいと言われました。まとめや発表、学力向上プロジェクトなどのために時間をかけたいと思いますが、現在、「総合的な学習の時間」が削減されています。この「総合的な学習の時間」の削減について、どのように考えているのか、教えていただければと思います。

田中さん

  「総合的な学習の時間」について専門的に研究しているので、心持ちとしてはとても残念です。やはり、「総合的な学習の時間」は、子どもたちが課題解決学習をすすめたり、地域社会とかかわったりし、地域や社会に直面する課題に気付き、自ら「生きる力」を育むという観点からも必要なものであり、小学校において週3時間は欲しかったです。今は週2時間になってしまいました。また、中学校でも減ったことについてはとても残念です。21世紀というのは福祉、人権、平和、国際など、とても重要なテーマがあるにもかかわらず、新しい学習指導要領は知識偏重教育につながるのではないかと心配しています。

 新学習指導要領の方向性は、調和とバランスとされており、知識偏重だけでなく、活用型の学習も含まれています。これは比率の問題です。フィンランドでは、年間4割ぐらいの時間で調べたり、発表・討論をしたりしてきた結果、基礎学力が落ちてきたと言われており、今、2割程度に減らそうとしています。逆に日本は今まで1割程度だった活用型の授業を2割に増やしました。「総合的な学習の時間」は減りましたが、活用型の授業が少し増えたので、70時間あればということです。また、世界的にも「総合的な学習の時間」が広がっています。今、台湾や韓国でもやっています。それから、イギリスもあります。市民科(シティズンシップ)といって、イギリスの場合は市民科とコンピュータの時間を合わせて週2時間行っています。フィンランドも70時間です。ドイツもそうです。ですから、世界的動向を考えても、大体年間70時間ぐらいというのがバランスがよいだろうと言われています。ですから、日本もギリギリこのぐらいのバランスで行ってみようということで、合意できる範囲かなと思っています。「総合的な学習の時間」の使い方は各学校で自由ですが、今日の話を思い出していただき、家庭学習力向上とか、仲間づくりプロジェクトとか、いじめ防止プロジェクトなどを取り入れ、カリキュラムをマネジメントしていただき、70時間をぜひとも有効に使っていただければと期待しています。

カテゴリー:子どもたちの健やかな成長を, 教育研究愛知県集会<特別集会>, 更新情報    

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