. 子どもたちの健やかな成長を

子どもの心とからだの健やかな成長をめざして- よりよい人間関係を築く力を育む支援のあり方 -

2012/11/01

第31回 愛教組女性部養護教員研究集会

 愛教組は、県内養護教員と単組(支部)の女性部長の参加のもと、愛教組女性部養護教員研究集会を開催しました。「子どもの心とからだの健やかな成長をめざして-よりよい人間関係を築く力を育む支援のあり方-」をテーマに基調提案・意見発表・講演を行い、学習を深めました。

内容

基調提案「養護教員をとりまく情勢と取り組みについて」

 本年度より、養護教員の複数配置既配置校における緩和措置が講じられました。また、妊娠した養護教員の負担軽減措置についても、活用期間の枠が外され、制度が拡充されました。子どもたちの健康課題が多様化している昨今、一人ひとりの子どもにきめ細かな対応をし、学校保健の充実をはかるためにも、複数配置の拡大と養護教員にかかわる制度のさらなる拡充にむけ、今後もねばり強く要望していきます。

意見発表

  • 大規模校では、来室者は1日20人前後になります。生徒からの相談には、じっくり話を聞こうと努力しています。一人ひとりの子どもたちに対してよりきめ細かな対応をするためにも、複数配置基準の引き下げを望みます。
  • 本校では、本年度児童数が減少し、複数配置基準を下回りましたが、緩和措置により複数配置が継続されました。しかし、措置の上限は2年なので、今後の児童数の変動により単数配置になることが懸念されます。児童数が少し減ったからといって来室者が減ることはなく、これまでと同様の対応ができなくなるのではないかと不安を感じます。複数配置基準の引き下げとともに、緩和措置の継続・拡充をぜひお願いします。
  • 妊娠した養護教員の負担軽減措置を活用し、非常勤養護教員には健康診断のあらゆる場面で補助に入ってもらいました。しかし、勤務内容は健康診断業務に限られているため、検診中に来室する子どもがいても対応することができません。今後、非常勤養護教員の勤務条件なども含め、制度の拡充を望みます。

講演の概要「子どもの心に寄り添うカウンセリングマインド」
【講師】子ども家庭教育フォーラムカウンセラー 荻野ゆう子さん

はじめに

 人とかかわる仕事は、悩むことも多いけれど、ほっとすることや嬉しいこともあり、そういう機会があるからこそ続けられるのだと思います。学校の中で子どもの心と体の健康を支えつつ、そして先生方自身がそこで成長していくという教師の仕事は、とても尊いものだと思います。

つらいときはつらいと言っていい

 「つらいときはつらいって言っていいんだよ」と周りの人には言えても、自分は専門家だから、人に悩んでいる姿を見せたり、つらいと言ったりしてはいけない、とは思っていませんか。でも、話を聞く立場である人も悩みを抱えているからこそ、相手の悩みに向き合い、気付くことがあるものです。そして、相手の話を聞きながら、自分自身の気持ちを整理することもできるのです。

せめぎあって折りあってお互いさま

 ある青年のカウンセリングの中で、いつの間にか話を聞く立場のわたくしが、彼に聞いてもらっていることに気付き、支援しているようでわたくしも支援されている、と感じた経験があります。相手の悩みをきっかけにして、お互いに支え、支えられていること、人間関係は1人で築いていくものではないことを実感することで、お互いのつながりが深まっていくのです。せめぎあって折りあってお互いさま。そうやってつながっていくことを子どもが先生方やカウンセラーとの人間関係を通して学び、人間関係を築く上での礎になっていく。そう考えると、そのときにわたくしたちが相手とどう向き合うかということが大切だと思います。子どもたちが人間関係を築いていく場を先生方やカウンセラーが提供していきたいですね。

人間関係を育てるカウンセリングマインド

 カウンセリングとは、人間関係を深めることだと考えています。カウンセリングマインドとは、人間関係に深くかかわっていくための心得であり大事にしたいことです。先生方には、きっと忘れられない子どもや人との出会いがあることと思います。そして、その経験の中から多くのことを学ばれたはずです。このように、人間関係を深めるための学びは、教科書からではなく、向かい合っている相手から学ぶものです。相手とのかかわりや、相手が自分に向けてくれる言葉のやり取りが、自分の中の教科書となり、今後に生かされていくと思います。

聞きすぎず、話しすぎず 

 カウンセリングは聞くことが大事であるとよく言われます。しかし、聞きすぎてしまうと、相談する側は自分の感情を出しません。一方で相談される側が話しすぎてしまうと、相談する側は話そうと思っていても言葉を閉ざしてしまうことがあります。聞きすぎず、話しすぎず、子どもとコミュニケーションをとるためには、聞き役を意識しつつ、自分の思いも語りながら相手が話すのを待つというやり取りが大事です。
 また、自分の気持ちを言いたいけれどなかなか言えない子どもに対しては、誘い水となるような言葉かけや話題を提供しながら分かち合うということを意識することも大事です。

心の居場所をつくるかかわり

 子どもと向き合うのに大切なことは、しっかりとそばにいてうなずくことです。そして、安心して子どもが愚痴や弱音を言えるように、こちらも弱音を語ること。それが子どもの気持ちを引き出していく手がかりになります。聞くだけではなくて、その背後にある言葉にならない気持ちを察すること。察することが何よりも大事なことで、自分のために手間をかけ、向き合ってくれている、と子どもが気付くことが人と向き合っていく喜びにつながっていくのだと思います。

おわりに

 以前、ある子どもが「心の新芽が出たよ」と言ってくれました。「心の新芽って何?」と聞くと「悲しみを吐き出すと心の新芽が出るんだよ」と答えてくれました。悲しいことやつらいことがあったときに、しっかり支えてもらえれば、もう一回自分になってみよう、こういう自分でいいんだという新芽、これこそ自己肯定感です。お互いの新芽を出し合える関係をつくっていけたらいいなと思います。
 諦めないでかかわり続けることが大切です。そういう大人の姿を通して、子どもは励まされ、心の新芽が育つのです。

参加者の声
  • 今かかわっている子どものことを思い浮かべながら聞いていました。あのときの言動や行動は、自分から「つらい」と言えない事情や、他に伝えたいことがあったのではないか、と気付かされました。子どもの内面をしっかり汲み取れるようにしていきたいです。
  • 「悲しみを吐き出すと心の新芽が出る」よい言葉だなと思いました。荻野さんのお話を聞いて、気持ちを察することの大切さを改めて感じました。 

    講演をする荻野ゆう子さん

 

 

 

 

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21世紀に必要な学力を育てる学校と家庭の連携のあり方 -第62次

2012/10/20

  特別集会では、早稲田大学大学院教職研究科教授の田中博之さんを講師としてお招きし、記念講演、参加者との意見交換を行いました。
 田中さんからは、「21世紀に必要な学力を育てる学校と家庭の連携のあり方」と題してお話をいただきました。知識だけの学力ではなく、これからの時代を生きる子どもたちにとって、本当に必要な学力とは何であるかについて、ご示唆をいただきました。本集会を通して、子どもたちの健やかな成長のために、学校・家庭・地域が連携することの重要性について、再確認しあうことができました。

記念講演 「子どもたちの健やかな成長をめざして」
―21世紀に必要な学力を育てる学校と家庭の連携のあり方―

講師 早稲田大学大学院教職研究科教授 田中 博之 さん
<家庭学習力の育成>

 本日のテーマは「21世紀に必要な学力」となっています。大きなテーマですが、まずは、しっかりと学校と家庭との連携をはかっていただくことが大切であると思います。

  「家庭の教育力の低下」という問題に対しては、「家庭の子育ての負担を増すようなやり方はよくない」、「家庭の教育責任の強調は教育格差につながる恐れがある」という声があります。しかし、宿題や予習・復習、読書などの学習習慣を身につけることや、食事や睡眠、そして遊びも含めた基本的生活習慣の確立などについては、各家庭の考えによるところが大きいというのは事実です。加えて、子どもがよりよい学校生活を送るためには、何らかの支援が必要となってくる家庭があることもまた事実です。

 東京都のある区の中学校で行った調査では、クラスの2割近い子どもたちが、家庭での学習時間が読書の時間を含めても0分でした。これはたいへん深刻な問題であると考えます。

 そこで、まずは、家庭学習力と教科学力の関係を調べました。家庭学習力とは、家庭での規則正しい健康的な生活習慣の基盤の上に、子どもが家庭での宿題、予習・復習、そして自主的学習などを計画的かつ自律的に行うために必要な能力や態度と定義します。

  【資料1】を見てください。これら11項目の一つ一つは基本的な内容です。そして、これらのアンケートに子どもたちが答え、その結果と教科学力との関係を表したものが【資料2】になります。【資料1】の②のように、生活リズムが確立している子とそうでない子とでは学力に違いがあるのです。

資料1

資料2

 また、③④のように、自分の苦手を見つめ、やり遂げる目標をもっている子は学力が高くなる傾向もみられます。さらに、⑪のように、「将来、こんな仕事に就きたい」と、自分の将来や進路に関して夢や希望をもって勉強することも大きな力となります。これらは、教科学力の「基礎」(知識)のみではなく、「応用」つまり、21世紀に必要な学力にも結びつくと結果に表れています。以上のことから、子どもたちの家庭学習力を向上させることが課題であると調査の結果から見えてきました。

  【資料3】を見てください。これは「家庭学習教育力モデル」の構造図です。学校や家庭を、地域・社会、教育行政も含めてサポートをし、さまざまな条件整備をしていくことが大切です。子どもが家庭でしっかりと学習する習慣づけを、この三者の働きかけを中心に行っていかなければなりません。

資料3

 それでは、どのように働きかけを行っていけばよいのでしょうか。家庭学習力の向上をめざして、学校と家庭が連携しているいくつかの事例を紹介します。

 まずはじめは、目標にむけての決意を子どもたち自身が定めることにより、家庭学習力を向上させる事例です。先ほども申しましたが、こつこつと目標を決めてがんばる子どもは学力が伸びやすいという調査の結果も出ています。ここで大切なことは、まずは子どもが自分で決意や目標を立てることです。そして、それに対して、保護者の方々もきちんとできているか声かけをして確認したり、できたらほめてあげたりすることです。さらに、子どもが書いたものを発表させたり、教室に掲示したりすると効果的です。

 また、各教科別に「ご家庭でこんな家庭学習をしてください」などのプリントを配付する学校も多いかと思われます。これをどこかに置いたままにしておく家庭と、冷蔵庫などの目に付くところに貼る家庭とでは違いが出てきます。家庭学習の望ましいあり方を学校の先生方がきちんと教え、子どもが目標を宣言し、保護者も常に見守る。これを続けていくと家庭学習の習慣が身についてくると思います。

 次に、「自主学習ノート」を用いた事例です。ある学校では、ノートにグラフを貼らせ、そこから読み取った事柄を子どもたち自身の言葉でノートに記入をしていきます。これでめざすものは、いわゆる21世紀型の学力といわれる、思考力・表現力の伸長です。さまざまな資料を自分なりに読み取り、まとめていく力が今、必要になっており、文部科学省はこれを「活用型学力」と言っています。このような内容が、新しい教科書に入ってきました。統計資料を読み取って、自分の考えをグループで討論した後に、ワークシートに50字くらいでまとめるといったものです。このような「活用型学力」につながる思考力や表現力を身につけるため、家庭学習・自主学習にこつこつと取り組ませている学校が少しずつ増えてきました。もちろん、先生方が自主学習用にいろいろな資料を渡して「これを切り貼りしてやってごらん」などのように仕向けなければ、これらの力は育ちません。加えて、活動させた後の先生方の励ましの朱書きがとても重要になってきます。昔から日本の先生方は朱書きを行っており、これは日本のとてもよい習慣です。海外ではこのような朱書きはありません。「先生が見てくれている、うれしいなあ」と、子どもと先生の心が通じ合う瞬間です。ほめて育てる教育の大切な部分であると考えます。

 宿題の話をしてきましたが、宿題で一番いけないのが「丸投げ」です。配付して「やっておきなさい」だけではいけません。宿題を出す際に「今日の宿題は、今日の難しいところを繰り返し練習する復習プリントだから、しっかりやってくると明日の学習がわかりやすくなるよ」などと一言添えることで、子どもの意欲は変化しますし、学力にもつながるとの調査結果が出ています。さらに、保護者に家庭学習の仕方について、保護者会やPTA総会などで説明すると、さらによいとされています。家庭学習において、ただプリントの反復練習だけでなく、新聞の社説を読ませるとか、新聞のコラム記事をまとめて感想を書かせるなども効果的です。

 このようなアイディアを直ちに全部はじめるというのは難しいかもしれませんが、保護者と学校が連携してこつこつとすすめると、結構大きな効果が出てくるということで、ご提案させていただきました。

 

<家庭学習力向上プロジェクト>

 次はある中学校の事例です。この学校には数年前に家庭学習力向上プロジェクトに取り組んでいただきました。その中で生徒会の学習委員会が自主的に取り組んだ活動を紹介します。

 子どもたちが自主的な家庭学習の時間をクラスごとに集計していき、その結果を意識づけのために一覧表にしました。これだけをやらなければならないというものではなく、家庭学習力向上月間と称して、あくまでも自主的に取り組む活動です。集計した数値結果の良し悪しではなく、一つの手だてとして子どもに意識化させることが目的です。

 また、「総合的な学習の時間」を利用して、家庭学習力向上プロジェクトを実行することもできます。例えば、先ほどの【資料1】のアンケートを最初に子どもたちにやってもらいます。それに加えて、ある日の1日の家庭学習や家庭での時間の過ごし方を円グラフに表します。そして、1か月後にどのように変化するのかを確認するプロジェクトを授業の中で行います。この時には、保護者にもしっかり協力してもらい、先生も声かけをし、友だちどうしで話し合って取り組むことが大切です。一人ひとりに、よさや個性がありますから、個々のスタートラインは別にどこでも構いません。大切なことは伸び、つまり成長です。友だちどうしで家庭学習や生活習慣をよりよくしていくための知恵を出し合い、そのアイディア交換会を行います。「伸びてよかったね」「すごいね」などほめほめ合戦をするのです。こういったことを少し行うだけで、子どもの意識は高まります。一人でやるよりもグループとか生活班など集団で支え合うということです。友だちと一緒に決めた計画であれば、やりがいもあります。友だちと支え合い、励まし合う、時にはダメ出しもする。でも、ほめ合っていく。学校に行けばほめてくれる仲間がいるんだ、助けてくれる仲間がいるんだと思って取り組むことが大事です。これは、友だちの力と連携した家庭学習といえるでしょう。そして、1か月後に再度アンケートを行い、個々の変容を確かめます。全員が劇的に変容するわけではありませんが、継続して行うことで、「次もがんばろう」などと言いながら家庭学習の習慣が身についていくというわけです。

 学校現場では、授業に必要な持ち物を忘れ、朝から友だちに借りるために奔走する子どもの姿がみられます。忘れ物をした子どもの対応で授業の開始時刻が遅れることもあります。これを解消するために、各家庭で保護者が点検してあげることもよいでしょう。そして、保護者の総会などで保護者がこの問題を共有し、一体となって考え、「持ち物点検をしましょう」と全家庭に呼びかけていただいてもうれしいものです。細かいと言えば細かいですが、こういったことをきちんと項目立ててやっていくことで、何をすればよいのかを家庭も学校も共通理解することで、協力体制がより充実します。その結果として、学校も家庭もみんなでがんばろう、というような雰囲気が生まれるPTA活動につながればよいと思います。

 

<思考力・判断力・表現力を育てる活用学習>

 ここからは21世紀型の学力についてお話しします。これまでの学校教育に対する批判もあり、今また知識偏重教育になりつつあると感じています。中には教科書を分厚くすればよいなどと主張する人もおり、少し心配しています。しかし、新しい教科書には思考力・判断力・表現力を身につける内容が盛り込まれています。知識だけでなく、自分で考え、表現し、コミュニケーションをはかることができるといった、社会に出てから必要な力、すなわち、「生きる力」が21世紀には必要であるということです。それでは、「生きる力」の育成をめざした新しい授業の形について、小学校の授業を例に取り上げます。

 昨年度から新しい教科書になり、教育が大きく変わってきました。資料を読んで、自分の意見を書き、友だちとグループディスカッションをした結果をさらに発表する授業、すなわち自分で考えて表現できる子どもを育てる教育です。毎日はできませんが、学期に1回ぐらい重点的にやればよいのです。例えば、国語科の授業で、次のような「大豆」についての説明文があるとします。

  「大豆っていうのは本当に不思議で、乾燥しておけば堅い豆です。それを茹でれば煮豆。粉にするときな粉。今度はそれを煮て、固めれば豆腐になります。そこに、いろいろな発酵菌を混ぜると、納豆、味噌、醤油。それから、少し成長させると豆もやしなど、いろいろな姿に形を変えていく。大豆というのは、姿を変えながらわたしたちの食生活を豊かにしているのです」
 古いタイプの教育であれば、読んで理解したら終了、もしくは漢字を覚えて終わりです。理解力や知識、漢字力も大事なので、これだけの授業でも悪いことではありません。しかし、21世紀型の学力を育てるためには、さらなる活動が求められます。姿を変える大豆の説明を読んだ後に、子どもも自ら大豆について調べることが大切です。そして、教科書に載っている模範文の例を参考にし、リサーチレポートを書かせるとよいのです。子どもを作家や表現者にする授業です。従来の教科書ではこのようなページはありませんでしたが、これからは思考力や表現力が必要ということで教科書も変わってきました。大豆はあくまでも一例であり、トウモロコシや牛乳などを調べさせてもおもしろいと思います。

 さて、このような授業があったとしても、家庭の連携なんてどこにあるのかと思われたかもしれませんが、実はこのような調べ学習については宿題としても出ます。例えば、一緒に図書館に行って調べるとか、買い物に行った際、関連する商品を探してみたり、お店の方にインタビューしたりするなど、家庭学習として調べたり、探検に行ったりすることが必要になってきます。保護者としては少したいへんかもしれませんが、子どもたちはこのタイプの宿題は大好きです。少しでもよいので一緒に考えてあげることが子どもの意欲にもつながると思います。

 このように、活用型学力、つまり21世紀型の学力を育てるためには、最初に話した家庭学習力が必要になってくるということがわかっていただけたかと思います。

 

<危機管理能力の育成>

 21世紀型の学力を育成するのに今、一番障害になっていると考えられるのは、子どもたちの人間関係です。本来、支え合ったり励まし合ったりしなければならない子どもたちの関係が、傷つけ合いやふざけ合いになっているのではと指摘されています。そして、この延長線上にいじめ問題があるわけです。いじめを解決することについては、今日の話の中では難しいのですが、いじめを防ぐために4月の学級開きの当初から意識的、意図的に、子どもと先生が一緒になって取り組んでいる事例を紹介したいと思います。

 ある学校では「学校に行きたくないなあ」という子どもがいなくなるように、きちんと年度当初に話し合う時間を設けるようにしています。特に4月は新しい学級になり、楽しみである反面、心配や不安な時期です。この時期に、どんな学級にしたいか、そして、いじめの芽を摘み取るためにみんなでどうすればよいか考え、いじめを止める勇気をもつなどの強い心を育てようとする話し合いをします。その結果を教室の目につく場所に掲示しておき、何か問題が起こったときには、振り返らせます。先生が帰りの会で1分でも2分でも話をすることで、子どもたちは意識するようになるのです。また、自分たちで話し合って決めたことであり、子どもの意識に戻すことができるため、とても有効です。やはり、自分たちで決めたことを常に意識化させる掲示は必要なことであるといえます。

 また、別の学校では、「いじめをなくすために僕たちができること」というテーマでディスカッションを取り入れています。方法としては、自分の意見、そのための取り組み、予想される効果などを盛り込んだ提案書を子どもたちに書かせます。例えば、「悪口を誰かが言っていたら注意しよう」「もやもやすることがあったら『もやもや書きノート』に書こう」「1か月に3回ぐらい、いじめがないか確認する時間をつくろう」など、真摯ですごく真剣な提案です。このような提案を出し合い、ディスカッションを通して、みんなでいじめ防止を呼びかけていく取り組みです。これを国語の授業で取り組んでおり、人間関係の育成や支え合う友だちづくりに生かしています。

 このような活動に取り組んでいる姿を教室に掲示し、学級懇談会でも話題にします。すると、保護者も学校教育に対して安心感を抱きます。そして、「先生、がんばって」と応援するような雰囲気になっていくのです。また、保護者にも家庭で学校での取り組みについての話題をたくさん出していただき、学校・家庭・地域が一体となって子どもたちの健やかな成長をめざしていかなければなりません。

 最後にネットいじめについて、少しふれさせていただきます。今、ネットいじめは、とても残念なことですが広がりを見せています。携帯メールで、いじめに関するさまざまな言葉が飛び交っています。しかも、サイバーパトロールなどに引っかからないように、正しい文字を使わずに当て字を使用することもあり、面白半分にどんどん広がっていくわけです。こうした状況が続くと、ますます学級の中で子どもたちの関係がギスギスしていきます。下手なことを言ったことによって、いじめられる可能性があるのではと考えてしまうので、みんなの前で自分の考えを発表する活用型の授業なんて怖くてできなくなります。そうした状況に陥らないためにも、常に子どものサインを見逃さないようにしなければなりません。いじめを受けている子どもは、のどが渇くのでよく水を飲むようになったり、携帯の着信音を聞こえないように小さくしたりすることもあります。何かあればすぐに相談できる体制を整えておくことが必要です。家庭では、きちんと携帯電話の使い方をアドバイスし、ルールを決めていただきたいですし、学校でも情報モラルやネット安全の教育をすすめてほしいと思います。

 みんなで考えたルールや家庭で決めたルールを子どもの目につく場所に掲示し、学校と保護者が連携することで、子どもをいじめの加害者にも被害者にもしないような教育が生まれていくのではないでしょうか。

 

講演をする田中博之さん

◎ 意見交流

質問者

 活用型の学力という内容についてたいへん参考になり、私の学校にも取り入れていきたいと思いました。さて、新学習指導要領において、お話の中に出てきた活用力を身につけさせるために、「特別活動」や「総合的な学習の時間」の中で、このような取り組みをするとよいと言われました。まとめや発表、学力向上プロジェクトなどのために時間をかけたいと思いますが、現在、「総合的な学習の時間」が削減されています。この「総合的な学習の時間」の削減について、どのように考えているのか、教えていただければと思います。

田中さん

  「総合的な学習の時間」について専門的に研究しているので、心持ちとしてはとても残念です。やはり、「総合的な学習の時間」は、子どもたちが課題解決学習をすすめたり、地域社会とかかわったりし、地域や社会に直面する課題に気付き、自ら「生きる力」を育むという観点からも必要なものであり、小学校において週3時間は欲しかったです。今は週2時間になってしまいました。また、中学校でも減ったことについてはとても残念です。21世紀というのは福祉、人権、平和、国際など、とても重要なテーマがあるにもかかわらず、新しい学習指導要領は知識偏重教育につながるのではないかと心配しています。

 新学習指導要領の方向性は、調和とバランスとされており、知識偏重だけでなく、活用型の学習も含まれています。これは比率の問題です。フィンランドでは、年間4割ぐらいの時間で調べたり、発表・討論をしたりしてきた結果、基礎学力が落ちてきたと言われており、今、2割程度に減らそうとしています。逆に日本は今まで1割程度だった活用型の授業を2割に増やしました。「総合的な学習の時間」は減りましたが、活用型の授業が少し増えたので、70時間あればということです。また、世界的にも「総合的な学習の時間」が広がっています。今、台湾や韓国でもやっています。それから、イギリスもあります。市民科(シティズンシップ)といって、イギリスの場合は市民科とコンピュータの時間を合わせて週2時間行っています。フィンランドも70時間です。ドイツもそうです。ですから、世界的動向を考えても、大体年間70時間ぐらいというのがバランスがよいだろうと言われています。ですから、日本もギリギリこのぐらいのバランスで行ってみようということで、合意できる範囲かなと思っています。「総合的な学習の時間」の使い方は各学校で自由ですが、今日の話を思い出していただき、家庭学習力向上とか、仲間づくりプロジェクトとか、いじめ防止プロジェクトなどを取り入れ、カリキュラムをマネジメントしていただき、70時間をぜひとも有効に使っていただければと期待しています。

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第62次愛知県教育研究集会

2012/10/20

基調報告より

  • 分科会(各科目についての報告は下の表からご覧下さい。)
1 国語教育 文学その他
作文その他
2 外国語教育
3 社会科教育 小学校
中学校
4 数学教育 算数
数学
5 理科教育 物理・化学
生物・地学
6 生活科教育
7 美術教育
8 音楽教育
9 技術教育
 
10 家庭科教育
11 保健体育 体育
保健
12 自治的諸活動と生活指導 小学校
中学校
13 能力・発達・学習と評価
14 特別支援教育
15 進路指導
16 教育条件整備
17 過密・過疎、へき地の教育
18 環境問題と教育
19 情報化社会の教育
20 読書・学校図書館
21 総合学習

基調報告より

 わたくしたちは、これまでの61次にわたる教育研究において、夢と希望あふれる教育の創造をめざし、子どもたちを中心にすえ、それぞれの学校・地域の特色を生かした、自主的・主体的な研究を行ってきました。また、保護者への意識調査を実施し、今日的な教育課題を明らかにするとともに、各地域で教育対話集会などを行い、保護者や地域の方々と意見交換をする中で、子どもたちに主体性・創造性を育み、自ら課題を見つけ、判断し、行動できる力、学ぶ意欲も含めた総合的な力である「生きる力」を育む取り組みについての合意形成をはかってきました。現在、各学校では子どもたちの健やかな成長を願い、日々教育活動に取り組んでいます。今後も、子どもたちに学ぶ喜び・わかる楽しさを保障するために、教育課程編成についてさらに研究をすすめていかなければなりません。

 さて、本年度から新しい学習指導要領が完全実施されました。学習内容や授業時数の増加から知識偏重教育への回帰が懸念されています。また、「総合的な学習の時間」の縮減は、子どもたちが課題解決学習をすすめたり、地域社会とかかわったりする時間が少なくなることを意味します。その結果、子どもたちがさまざまな体験を通して、自己の成長に対する意識を高めたり、学びを深めたりする機会が減ってしまい、本来身につけなければならない「生きる力」が低下してしまうことが危惧されます。

 このようなときだからこそ、わたくしたちは学習指導要領をあくまでも大綱的基準としてとらえ、未来を担う子どもたちのために、夢と希望あふれる教育を創造する取り組みを継続し、学校現場からの教育改革を推進していかなければなりません。そのためにも、ゆとりとふれあいの中で、基礎・基本の定着はもちろんのこと、課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力を育んでいかなければなりません。また、子どもたち一人ひとりが意欲をもち、自らすすんで取り組む質の高い学びを大切にするとともに、地域に根ざした体験活動を中心にした学習を構築していかなければなりません。さらに、すべての子どもたちのために、学校・家庭・地域の連携をよりいっそう強化し、地域ぐるみの教育をすすめていくことが必要です。

 それら一つ一つの教育改革を積み重ね、子どもたち一人ひとりの「生きる力」を育むことが、子どもたちのよりよい人間関係を築き、現在、憂慮されているいじめや不登校などの教育課題の解決につながる一助になると考えます。

 今次の教育研究活動においても、ゆとりとふれあいの中で「わかる授業・楽しい学校」の実現をめざし、「学びの質を追究し、子どもたち一人ひとりの意欲を大切にした、学ぶ喜び・わかる楽しさを保障する教育課程編成活動をすすめる」「学校・地域の特色を生かし、人・自然・文化などとのかかわりを大切にした創意あふれる教育課程編成活動をすすめる」の2点を研究推進の重点として提起しました。わたくしたちがすすめる教育改革は、日々の教育実践を積み重ね、その中で成長していく子どもたちの姿で示すべきと考えます。各分科会においては、実践研究の報告をもとにして、活発な議論を展開するとともに、その成果を各単組・分会にもち帰り、還流をはかっていただくことを大いに期待します。

 また、本日の特別集会では、子どもたちの現状や最近の教育をめぐる情勢をふまえ、-21世紀に必要な学力を育てる学校と家庭の連携のあり方-と題して、記念講演を行います。知識だけの学力ではなく、これからの時代を生きる子どもたちにとって、本当に必要な学力とは何であるかについて再確認するとともに、その学力を育てるために学校・家庭・地域がいかに連携していくかについて、参加者のみなさまとともに考え、共通理解をはかる場にしたいと考えます。

 最後になりましたが、この教育研究愛知県集会が愛知の教育のさらなる推進のため、そして何よりも目の前の子どもたちの健やかな成長のために、実り多いものとなることを祈念し、本集会開会にあたっての基調報告といたします 。

分科会

分科会の様子
       

       

 

国語教育(文学その他)

 説明的文章7本と、文学的文章39本のリポートが報告された。目の前の子どもたちの実態を見つめた地道な実践が多く、どのような教材で、どのように読む力をつけるべきかについて、報告されたリポートをもとに、討論が展開された。

国語教育(作文その他)

 作文(綴り方)教育22本と、音声言語の教育27本、言語教育4本のリポートが報告された。目の前の子どもたちの実態を見つめて、どのような子どもを育てるのか、文字言語・音声言語のよさを生かして、どのような力を育てていくのかについて討論が展開された。

外国語教育

  「コミュニケーション活動」「小学校外国語活動」「読む・書く活動」「音声中心の活動」という4つの討論の柱にもとづいて、全員発表の形式で行われた。
 本年度より中学校では週3時間だった英語の授業が週4時間に増加したため、プラス1時間の活動に工夫を凝らした研究実践や、「読む」「聞く」「話す」「書く」の4技能の統合をめざした研究実践が数多く報告された。

社会科教育(小学校)

 子どもたちの追究意欲を高めるために、地域の産業や事象を教材化し、調査・体験活動、まとめ方や発表の仕方を工夫した実践が報告された。 また、地域で活躍した先人の働きや、身近な政治問題をどう教材化し、どのような社会認識を養うべきかという課題に取り組んだ実践が報告された。
 討論では、地域素材を生かしながら、広い視野で社会を見る力を育成するための工夫、社会へ参画する力を育成するための工夫などについて熱心に話し合われた。

社会科教育(中学校)

 子どもたちが主体的に取り組む学習活動のあり方についての実践や、社会に対する見方・考え方を深める学習活動のあり方についての実践が報告された。
 身近な素材を教材化して地域社会の問題点を取り上げたり、地球規模の課題を子どもとつながりのあることとしてとらえさせたりして、切実感をもたせ追究していく実践や、学ぶ喜びを感じとることができるような学習活動を工夫する実践、社会参画の意識を育む実践が多く報告された。

数学教育(算数)

 「思考力・判断力・表現力の育成」「わかる・できる指導の工夫」「学び合う力の育成」の3つの柱立てで、実践の報告や討論が行われた。どの報告からも、算数の学習において基礎・基本の定着に主眼をおき、子どもが「できた・楽しい」と感じる学習展開の様子がうかがわれた。
 討論では、算数に苦手意識をもっている子どもへの手だてや、どのように話し合わせると学びが深まるのかなどについて議論され、活発な意見交換が行われた。

 数学教育(数学)

 「確かな学力の定着」「数学的な見方や考え方」「学習形態の工夫」「自ら学ぶ力・意欲の育成」の4つの柱立てで、実践の報告や討論が行われた。どの報告からも、数学の学習において自らが意欲的に取り組み、「わかる」喜びを感じることができる学習展開の様子がうかがわれた。
 討論では、それぞれの実践における評価の仕方や、数学が苦手な子どもに対しての手だて、これから改善していくべき課題などについて話し合われた。

理科教育(物理・化学)

 「子どもの発達段階をふまえた教育課程編成のあり方」「自然概念形成に有効な教材・教具の開発や指導の工夫」「単元における『ものづくり』の扱い方」「基礎・基本の習得と評価のあり方」「理科教育の意義」の5つを柱立てにして、教育実践事例のリポート報告36本にもとづきながら、テーマ別討議や全体討議が活発に行われた。
 

理科教育(生物・地学)

 身近な自然に目を向けさせ教材化する実践、飼育・栽培活動を継続的に行う実践、マクロな自然現象のモデル化により子どもたちの理解を深める実践、キーワードを提示することで考えを深める実践などが報告された。
 討論では「基礎・基本を重視するカリキュラムのあり方」「地域の素材・人材の教材化」「子どもの視点に立った教材・教具の開発」「子どもたちに理科の有用性を実感させる指導のあり方」などについて活発な意見が出された。その中で、科学的な事実を理解するためには、用語の意味を正確にとらえることと、それを使った文を構成する力を養うことが重要であることが確認された。 

生活科教育

 伝え合い交流する活動を通して、地域の自然や人々とのかかわりを深める実践や、活動を通して気付きの質を高め、自分自身への気付きを深める実践が多く報告された。
 体験をもとにした言語活動を重視し、友だちとの交流や教員との対話を通して思考を深めたり、気付きの質を高めたりしている報告が多くみられた。
 討論では、「子どもの思考を深める対話の方法」「伝え合い、交流する活動を通して、子どもが培う力」などについて、活発に意見交換が行われた。

美術教育

 「美術教育を通して子どもたちに伝えたいこと」をテーマに実践報告や討論がすすめられた。
 総括討論では、授業の中で教員が感じていることや、子どもたちの実態に迫ることからテーマを深めることができた。「体験不足」「自信がもてない子ども」「発想を豊かにする難しさ」など、課題となる実態を認識しながらも、「試行錯誤しながら、自分たちで問題を解決していく姿」や「友だちとの豊かなかかわり」「作品に愛着をもつ姿」など、子どもたちの可能性に目を向けた話し合いが行われ、子どもたちに身につけさせたい力とは何かを考えることができた。

音楽教育

 音楽の質を高めるためのコミュニケーションのあり方、めざす子どもを育てるためのよりよい教材選択や指導法の工夫をテーマに討論をすすめていった。
 午前中は、DVDによるすべての実践報告を行った。どの報告もいきいきとした子どもの様子や、めざす姿に変容していく様子をよくとらえたものだった。
 小学校低学年では、リズムに重点をおき楽しく表現活動や音楽づくりに取り組ませるものが多く報告された。小学校中学年では、音楽を特徴づけている要素を意識して歌唱活動させるものや、思いを表現につなげ、音楽づくりに取り組ませる実践が報告された。小学校高学年では、グループ活動を取り入れ、思いを大切に表現させる実践が多く報告された。中学校では、曲に込められた思いと自分の思いを重ねるなど、主体的に表現させるための工夫を凝らした実践が多く報告された。

技術教育

 生活の中で技術科が果たす役割について体験的に学ぶ実践が多く報告された。材料と加工では、使う人のことを考えた構想と設計に取り組んだ実践、ペアで協力し合い、互いに高めていく製作活動の実践が報告された。エネルギー変換では、安全に留意し、ていねいに作業を行う実践、目的や条件にあったオリジナル回路製作の実践が報告された。生物育成では、地域の特産物を題材とした実践、視聴覚機器を活用した作物栽培の実践が報告された。情報では、情報モラル教育における教材を作成した実践、二進法を取り入れたコンピュータ基本原理にふれた実践がみられた。これらの実践をもとに、具体的な討論を行うことができた。

家庭科教育

 子どもの興味・関心からさまざまな方法で追究し、家庭や地域と連携する中で、学びを深め生活をよりよくしていこうとする実践が多くみられた。また、現代社会が抱える課題に取り組む実践もみられた。小学校のリポートでは、朝食づくりをテーマにした実践が多く発表された。中学校では、小学校で学んだ基礎的な学習内容を生かした発展的な実践が報告された。これらの実践をもとに、具体的な討論を行うことができた。

保健体育(体育)

 「体育でどのような子どもを育てるか、自ら考え行動する子どもをどのように育てるか」を大テーマに、「かかわり合いを大切にした授業づくり」「学年に応じた体力向上と技能向上」を研究主題として、発表・討論が行われた。
 どのリポートにも、指導方法の工夫や仲間とのかかわり方にさまざまな工夫のある実践が報告された。討論では、技能習得のための指導のあり方や教材の工夫、子どもの意欲を引き出すための指導法などについて、活発な意見が出された。

保健体育(保健)

 「子どもが生活の主体となるための健康教育」をテーマに、さまざまな健康課題に対応した指導の方法や教材・教具を工夫した実践、保健学習の取り組み、体験活動を重視した実践などが報告された。報告を通して、健康に対する意識の高まりや健康課題を解決するための実践力が着実に育ってきている様子が感じられた。

自治的諸活動と生活指導(小学校)

 「たくましく生きる子どもを育てよう」をテーマとして、活発な討論がなされた。
 子どもたちのよりよい人間関係を築くために、学級や学年、異学年交流を通して活動する実践が多く報告された。また、子どもたちが自分自身を見つめ、自ら課題を見つけて取り組むことで、達成感や成就感を味わい、豊かな人間性を身につけていく実践も報告された。さらに、学校と保護者、地域社会が連携して一人ひとりの子どもを支援していく実践なども報告された。
 これらの実践報告をもとに、子どもたちの活動のあり方や意義、子どもたちの実態のとらえ方やそれをふまえた教員の支援のあり方について熱心な討論が展開された。

自治的諸活動と生活指導(中学校)

 「たくましく生きる子どもを育てよう」をテーマに、活発な討論がなされた。
 人権について考える実践や、東日本大震災の被災地との交流を通した実践、子どもたちの主体的な活動が多くみられる学級活動や生徒会活動、家庭・地域との連携を通じて子どもの成長をねらう実践が報告された。
 これらの実践報告をもとに、子どもたちの実態をふまえた支援のあり方について検討が深められた。

能力・発達・学習と評価

 子どもたちの意欲をもたせるための取り組みでは、中学校生活にむけた学級活動での取り組みや自己評価カードを用いて意欲的に取り組ませる実践、話型を用いた話し合い活動、からだレッスンを取り入れた実践、単元内自由進度学習を取り入れた実践が報告された。
 ICTを活用した取り組みでは、デジタル教科書やパワーポイントを活用した取り組みや、映像・資料などを効果的に用いて子どもの興味・関心を高める実践が報告された。

特別支援教育

 「豊かに生きるための力を育む」というテーマのもとに52本のリポートが報告された。
 子どもの教育的ニーズを的確に把握し、学習意欲を高めるような教材・教具を工夫した実践、子どもの現在や将来の生活に直接結びつく力を身につけさせるための実践、人とかかわる力やコミュニケーション能力を高めるための実践などが報告された。

進路指導

 キャリア教育の推進として、基礎的・汎用的能力の育成が求められているなか、その能力を意識した実践が報告された。
 小学校では、人間関係形成能力を育成したり、自己理解を促したりする実践が報告された。話し合う活動や協力し合う活動を意図的に取り入れる必要性が確認された。
 中学校では、職場体験学習を軸としたキャリアプランニング能力の育成をめざした実践が報告された。生徒が主体的に取り組むための事前指導や手だての必要性が確認された。

教育条件整備

 「子どもの学習権の保障のために」を主題に、防災教育にかかわる条件整備、ICT教育にかかわる条件整備、さまざまな教科指導にかかわる条件整備、教職員の配置にかかわる条件整備について報告された。
 子どもたちが有事の際に確実に避難し、自主的な判断のもと、災害から生き抜く力を育むための実践や、ICT機器を効果的に活用し、子どもたちが意欲的に学ぶ実践、ICT機器の利用状況や問題点をアンケートによる調査でまとめた実践などが報告された。また、ゲストティーチャーを有効に活用することで子どもの学びが深まった実践や、人的配置についての調査結果から現状の問題点を明らかにした実践なども報告され、熱心な討論が行われた。 

過密・過疎、へき地の教育

 地域や子ども園との交流や、海外派遣事業においてALTや海外の家族とすすんでかかわり、コミュニケーションを深める実践、9年間を見通した小中連携教育の実践、双方向性のメディア特性を生かして小規模校間でかかわりをもったり、その学校の特色について伝え合ったりする実践など、6本が報告された。
 へき地ならではの学校・家庭・地域のよさを生かし、連携をめざした実践、行事を振り返り、6年間の取り組みをファイリングすることで、活動の意義や目的を改めて見つめ直していく実践、へき地校の抱える問題に真摯に取り組んだ実践など、それぞれ特色のある学校づくりへの活動の意欲が感じられた。

環境問題と教育

 地域の素材や人材を総合学習や理科などの教材に取り入れることで学びを深める実践、節電やリサイクルなどの身近なものを教材化し、環境問題解決にむけ、自分にできることから取り組んでいく実践など、小学校から4本、中学校から4本のリポートが報告された。
 身近な自然や生物を愛し、よりよい環境づくりに目を向けたり、環境問題について子どもたちの意識を高め、よりよい生活をめざしたりと、子どもたちの確かな実践力の育成をめざし、積極的に実践されている様子がうかがわれた。

情報化社会の教育

 各教科などでICT機器を有効に活用することにより、学習意欲の向上をはかりながら学習のねらいに迫っていく実践が数多く報告された。
 そして、学習の題材、発表の場や発表対象を工夫することによって、必要な情報を主体的に収集・整理し、相手を意識した発表(情報の発信・伝達)をする情報活用の実践力を育成する実践も報告された。
 さらには、数年前から子どもたちの間でも起きているネット上の問題に関連して、子どもたちに情報モラルの意識や態度を育てるための実践も報告され、参加者から多くの質問や意見が出され、積極的な討論が展開された。
 

読書・学校図書館

 学校間・地域間で差はあるものの、図書館の環境整備や公共図書館と連携をすすめながら、読書に親しませる実践が行われている。しかし、図書館として機能するための環境整備が十分されていない学校があることや、調べ学習の方法がわからない子どもが多いことなどが指摘された。そこで、さまざまな働きかけを通して、「自ら本を手に取り、読書に親しむ子」を育てるための工夫を凝らした実践が数多く報告された。

総合学習

 食育・環境保全・防災・キャリア教育などの今日的な課題を、子どもの発達段階や地域の特色を考慮しながら探究的な学びを行った実践が多く報告された。また、学級集団や地域のさまざまな立場の人との効果的なかかわりの中で、自己の生き方を見つめ直し、学びをもとに自らの生活に生かしたり将来について模索したりする実践も多く報告された。
 どの実践も、めざす子どもの姿を具体的に想定し、豊かな体験活動により、子どもに必然性や切実感をもたせる工夫をしたり、段階的な指導や自己評価を活動に生かす取り組みを行ったりすることで学びの質を高めており、「学び方を学ぶ」という総合学習のもつ価値について確認することができた。

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21世紀をになう子どもたちのために - 育もう 自分らしく生きる力を -

2012/10/06

第59回 愛知母と女性教師の会

 愛教組は、保護者と教員約270人の参加のもと「愛知母と女性教師の会」を開催しました。女性部提案と講演の後、5つの分散会に分かれて「自分らしく生きるとは」「子どものために親として大人としてできることは」などについてグループ討議をしました。

内容

女性部提案:「男女が自立し、ともに生きる力をどう育てるか」
-自分らしく生きることを考える実践を通して-

 小学校6年生の実践では、「男女のかかわりを深め、自分らしく生きようとする子をめざして」をテーマに、男女混合で遊ぶことでお互いの思っていることやよさをみつける実践が報告されました。
 中学校2年生の実践では、「互いのよさを認め合いながら、自分らしさを大切にして、将来の自分の生き方について考える子をめざして」をテーマに、お互いのよさをみつける活動や職業についての調べ学習などを通して、将来の自分の生き方をみつめる実践が報告されました。

参加者の声
  •  男性としてのよさ、女性としてのよさをお互いに認め合い、足りない部分を補えるコミュニケーションがとれるようになるとよいと思いました。また、自分に自信がもてるようになることは、生きる力を育てる上で大切なことだと感じました。 (保護者)
  •  自分に自信をもつことができれば、心にゆとりが生まれ、他者を思いやる心があふれ、人とのよりよいかかわり方がわかるのではないかと思いました。自己肯定感を高める実践の必要性を強く感じました。 (教員)

 

講演【演題】   「ダニエルの子育て論」
   【講師】   ダニエル・カールさん(タレント)

講演内容の一部を抜粋

 子どもの話すことは、最後まできちんと聞き、その後でおかしいところを優しく説明するということが大切です。小さい頃からコミュニケーションが上手にとれるよう、話しやすい環境や親子関係を築くことによって、悩みを相談できるようになるのだと思います。
 子どもとコミュニケーションを取るときも、伝えたいことをはっきり、わかりやすく話すのがよいと思います。子どもが一番求めているのは、家族愛です。家族に愛されているという自信をもつことができれば、子どもはどんどん成長することができます。だからこそ、子どもに「好きだよ」とはっきりと言うことが大切です。

参加者の声
  •  コミュニケーションの大切さを学びました。まずは、どんなに忙しくても手を止めて、子どもの話を聞こうと思いました。話したいという気持ちが高まった子どもの気持ちを大切にすると、子どもは、思いを共有してくれると考え、さまざまなことを話すのですね。話しやすい環境をつくるように心がけたいです。 (保護者)
  •  幼い子は外国人だと思って接するというダニエルさんの言葉から、子どもたちにわかりやすくていねいに、自分の思いや考えを伝えるように意識していきたいと思いました。また、子どもたちの話をじっくり聞く時間をとって、思いを受け止められるように心がけたいです。 (教員)


     講演するダニエル・カールさん

分散会
「育もう 自分らしく 心豊かに生きる力を」

 女性部提案や講演を受けて、5つの分散会に分かれ、21世紀をになう子どもたちのために、保護者として、教員として、何ができるかについて話し合いました。

参加者の声
  •  自分の全力を出している姿を子どもたちに見せることで、伝わるものがあると思います。だからこそ、自分自身が輝いていられるようにしたいです。
  •  大人がコミュニケーションをたくさんとれていれば、その周りの子どもたちは心豊かに生きることができるのではないかと思いました。 
  •  PTAや子ども会の役員を引き受けたことで、親どうしや地域の方とのつながりができました。これらのつながりは、多くの情報が入ることにもなり、子どもをより理解するのに役立っています。教員も含めた大人どうしの連携で、子どもたちを見守ることが大切だと感じました。 

「これから私は!宣言」

 分散会での話し合いの後、意見交換をしながら得たことを、「これから私は!宣言」としてまとめました。

  •  自分のことを「好き」と言える子になるよう、よいところをストレートに言葉で伝えていきたいです。 (保護者)
  •  子どもが自信をもてるように、個性を尊重していきたいです。自分らしくいられる場所、家庭づくりに精一杯取り組みます。 (保護者)
  •  子どもたちの話をしっかり聞いて、一緒に考え、子どもの心をまっすぐ受け止められるようにしたいです。 (教員)

アピール採択

 最後にアピール採択委員により、集会アピールが読みあげられ、採択されました。この集会アピール文を11月に県教育長に提出しました。

集会アピール

 愛知の母親と女性教師は、「わが子・教え子を再び戦場に送るな」のスローガンのもと、子どもたちの明るい未来を願い、ともに歩んできました。そして半世紀にわたり、この「愛知母と女性教師の会」に集い、子どもたちの健やかな成長を願って、意見交換を続けてきました。
 
 子どもたちは無限の可能性を秘めています。わたくしたち、親と教師の願いは、子どもたちが未来に夢や希望をもち、瞳を輝かせて生きることです。しかし、さまざまな問題を抱える現代社会の中で、好ましい人間関係が築けなかったり、自分のよさに気付かず自分に自信がもてなかったりする子どもは少なくありません。そして、子どもたちだけでなく、親や教師も、心に不安や悩みを抱えて生活しているのです。
 
 子どもたちは目の前の大人の姿を通して、将来を見つめています。わたくしたち大人が互いを認め合い、尊重し合う社会を築かなければなりません。そして、自分らしさを失わず、輝いて生きることが大切です。子どもたちの健やかな成長を願い、すべての大人が力を合わせて子どもたちを育んでいきましょう。
 子どもたちがより多くの人々とつながり合い、信頼し合い、ともに生きていくことができるよう、わたくしたち大人が手をとりあい、支えていこうではありませんか。

語り合いましょう
   子どもたちが輝く 未来を

育んでいきましょう
   自分を信じ 自分らしく 心豊かに生きる力を

築いていきましょう
   人と人とが手をつなぎ合い、互いを認め合うことのできる社会を

 21世紀をになう子どもたちのために、人と人とが心を結び合い、ともに生きる社会を実現していくことをここに誓います。
                              
                                    2012年10月6日
                                      第59回 愛知母と女性教師の会

 

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ホームページをリニューアルしました

2012/10/01

ATUのホームページをリニューアルいたしました。
今後とも、よろしくお願いいたします。

カテゴリー:お知らせ    

「みんなで教育改革を」を更新しました

2012/09/06

「みんなで教育改革を」の「教育改革拡大学習会」を更新しました。
詳細はこちらです。

カテゴリー:更新情報    

「子どもたちのための教育改革を」を更新しました

2012/09/06

「みんなで教育改革を」の「子どもたちのための教育改革を」を更新しました。
詳細はこちらです。

カテゴリー:更新情報    

「スポーツ・文化的活動のあり方について」を更新しました

2012/09/05

「子どもたちの健やかな成長を」の「スポーツ・文化的活動のあり方について」を更新しました。
詳細はこちらです。

カテゴリー:更新情報    

「義務教育費国庫負担制度について」を更新しました

2012/09/03

「みんなで教育改革を」の「義務教育費国庫負担制度について」を更新しました。
詳細はこちらです。

カテゴリー:更新情報    

義務教育費国庫負担制度について

2012/09/03

Q1. 「義務教育」ってなあに?

 子どもは、全国どこでも等しく無償で小・中学校9年間の教育を受けることが教育基本法で保障されています。

  • 機会均等 … 全国どこでもすべての子どもに保障されています。
  • 水準確保 … 必要最低限の教育が保障されています。
  • 無償制  … 授業料を徴収せず公費で対応されています。

 全国どの地域でも、必ず一定水準の義務教育を受けられるようにすることは国の責任です。保護者の所得や地方財源の状況による教育格差はあってはなりません。

 

Q2. 「義務教育費国庫負担制度」ってなあに?

 義務教育費国庫負担制度とは、都道府県が負担する教職員給与の一部を国が負担することによって、教育の機会均等とその水準の維持向上を支えるための制度です。

Q3. どうして「義務教育費国庫負担制度」が必要なの?

 小泉内閣が行った「三位一体の改革」のもとで、2005年度に国庫負担率が2分の1から3分の1に引き下げられました。この先、万が一、さらに国庫負担率が引き下げられたり廃止されたりすると、以下のようなことが危惧されます。

(1) 教育条件の低下をまねきます
 教育費が削減されることになり、教員数の減少などの教育条件が低下する可能性が大きくなります。

(2) 教育費の地域格差が生じます
 廃止され、一般財源化されれば、多くの都道府県で財源不足に陥ります。この不足分を地方が補うことは困難です。結果として教育費の地域格差が生じます。さらに、一般財源化された予算は自由に使えるため、教育以外の目的に使われる可能性もあります。

(3) 保護者の負担増が予想されます
 今までの教育水準を維持するためには、保護者の教育費負担増をまねきかねません。

 愛教組は、さまざまな場において、義務教育費国庫負担制度を堅持するとともに、国庫負担率を2分の1へ復元することを強く求めています。

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