第58次 教育研究愛知県集会
2008/10/18
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基調報告より
現在、各学校では、子どもたちの将来を見据えて、今、目の前の子どもたちに何が必要なのかを考えながら、日々教育活動に取り組んでいます。そして、ゆと りとふれあいの中で子どもたちに主体性・創造性を育み、自ら課題を見つけ、判断し、行動できる「生きる力」を身につけさせることをめざした実践研究がすす められています。
これまでの57次にわたる教育研究の中で、わたくしたちは夢と希望あふれる教育の創造をめざし、子どもたちを中心にすえた数多くの教育実践を積み重ねて きました。そして、学習指導要領を大綱的基準としてとらえ、子どもの実態とそれぞれの学校・地域の特色を生かした教育課程を編成し、教育現場から発信でき る研究をすすめてきました。また、保護者の意識調査を実施し、今日的な教育課題を明らかにするとともに、各地域で教育対話集会や学習会を行い、保護者や地 域の方々と意見交換をし、子どもたちの生きる力を育む取り組みについての合意形成をはかっています。そして今後も、子どもたちに学ぶ喜び・わかる楽しさを 保障するため、学校・地域の特色を生かした主体的・創造的な教育課程編成について、さらに研究をすすめ、「各学校における教育課程編成への指針~ゆたかな 学びにむけて~」を発刊し、発信していきます。
ところが、中央では、「学力低下」「ゆとり教育」批判を受け、「全国学力・学習状況調査」の実施や学習指導要領の改訂など、知識偏重教育への揺り戻しと もとれる施策が少なくありません。これらの中央主導の施策によって、子どもたちや学校が画一的に評価され、序列化や競争を招いたり、これまで築き上げてき た学校と地域の結びつきが失われたりしてしまうことが危惧されています。知識ばかりの「学力」競争で置き去りにされ、「学力低下」ではなく「学ぶ意欲と希 望が低下」してしまった子どもたちが増えているにもかかわらず、点数や成績だけで子どもたちを比較したり、競争に駆り立てたりすることが、子どもたちの健 やかな成長につながるとは到底考えられません。このようなときだからこそわたくしたちは、すべての子どもたちに「生きる力」を育むために、学校・家庭・地 域が連携をとり、地域ぐるみの教育をすすめていかなければなりません。
今次教研においても、ゆとりとふれあいの中で「わかる授業・楽しい学校」の実現をめざし、「学びの質を追究し、子どもたちの学ぶ喜び・わかる楽しさを保 障する教育課程編成活動をすすめる」「学校・地域の特色を生かし、人・自然・文化などとのかかわりを大切にした創意あふれる教育課程編成活動をすすめる」 の2点を研究推進の重点として提起しました。わたくしたちがすすめる教育改革は、日々の教育実践の中で成長していく子どもたちの姿で示すべきだと考えま す。子どもたちの学ぶ喜びやわかる楽しさを追究した授業実践を行うこと、学校や地域の特色を生かした学習活動の成果を確認し合い、子どもたちに本当に必要 な力とは何かを議論していくことは、子どもたちの未来に責任をもつ教員として重要な使命であると考えます。各分科会においては、実践研究の報告をもとにし て活発な論議を展開するとともに、その成果を各単組・各分会にもち帰り、還流をはかっていただくことを大いに期待します。
また、本日の特別集会では、子どもたちの現状や最近の教育をめぐる情勢をふまえ、「学校・家庭・地域の協働によって育てる学力とは」と題して、シンポジ ウムを行います。子どもたちが未来を切りひらくための「ゆとり教育」の意義や、来年度からの移行措置の始まる新学習指導要領の示す「学力」などを論議し、 子どもたちにとって、本当に育てなければならない学力について、学校・家庭・地域の共通理解をはかりたいと考えています。
最後になりましたが、この教育研究愛知県集会が愛知の教育のさらなる推進のため、そして何よりも目の前の子どもたちの健やかな成長のために、実り多いものとなることを祈念し、本集会開会にあたっての基調報告といたします。
分科会
国語教育(文学その他)
目の前の子どもたちを見つめ、どのように読む力をつけさせるべきかを考え、提案されたリポートをもとに、討論が展開された。討論では教材の特性、2つの物語教材を続けて扱うこと、教材が対象学年の発達段階に即しているかについて話し合われ、教員が教材の力を見極めることの大切さ、国語教員として「読み方を教える」ことの大切さが確認された。
国語教育(作文その他)
表現の指導・言語の指導を通して、目の前の子どもたちの実態を見つめ、どのような子どもを育てるのか、文字言語・音声言語のよさを生かして、どのような力をつけていくのかについて討論が展開された。じっくり思考できることや、文字として残すことができることなどの文字言語の特長や、音声表現の教育では話すことで考えが深まり、話す価値のある題材を選ぶことが重要であることが確認された。
外国語教育
「少人数指導・小学校外国語活動」「話すこと(会話型)」「話すこと(スキット発表・スピーチ型)」「読むこと・書くこと」という4本の柱をもとに、子ども一人ひとりの学習意欲を高め、積極的にコミュニケーションをはかろうとする態度や能力の育成をめざした地道な研究実践が数多く紹介された。
社会科教育(小学校)
子どもたちの追究意欲を高めるために、身近な地域の産業や事象を素材として活用し、調査・体験活動の時間を保障した上で発表の仕方を工夫した実践、地域の歴史事象をどう教材化し、どのような社会認識を養っていけばよいのかという課題に取り組んだ実践などが報告された。討論では、子どもたちの社会認識を高めていくためにはどのような教員の支援が必要であるかなどについて熱心に話し合われた。
社会科教育(中学校)
子どもたちが主体的に取り組む学習活動のあり方についての実践や、社会に対する見方・考え方を深める学習指導のあり方についての実践、身近な素材を教材化して、地域社会の問題点を取り上げ、問題解決方法について話し合ったり、行動化に結びつけたりする実践、学ぶ喜びを感じることができるような学習方法を工夫し、共生社会をめざした生き方について考えさせる実践などが多く報告された。
数学教育(算数)
「学習意欲の育成」「指導形態の工夫」「数学的な見方・考え方の育成」「教材の工夫」「生活と結びつけた授業の工夫」の5本の柱立てで、実践の報告や討論が行われた。どの報告からも「できる、わかる授業」に主眼を置き、子どもを主体とした学習展開が工夫された実践の様子がうかがわれた。討論では、子どもの意欲を引き出す教材の工夫などについて話し合われた。
数学教育(数学)
「確かな学力の定着」「数学的な見方・考え方の育成」「自ら学ぶ力・意欲の育成」「学習形態の工夫」の4本の柱立てで、実践の報告や討論が行われた。自ら考え、意欲的に問題に取り組もうとする子どもの育成をめざすリポートをはじめ、基礎・基本を定着させる実践、また、少人数指導やグループ活動を取り入れるなどの指導形態や指導方法を工夫した実践など、多岐にわたる実践が報告された。
理科教育(物理・化学)
「子どもの発達段階をふまえた教育課程編成のあり方」「自然概念形成に有効な教材・教具の開発、指導の工夫」などの柱立てのもと、討論が行われた。科学的な思考力を養う指導方法や理科の基礎・基本を定着させる指導方法についての意見が出された。また、小学校の段階における粒子的考え方の導入やその必要性についての意見も出されるなど、活発な話し合いが行われた。
理科教育(生物・地学)
子どもの事物・現象に対するイメージを明確にする実践、身近な自然に目をむけさせたり、利用したりした実践、話し合いにより考えをつくりあげたり、共有したりする実践などが報告された。
討論では、「基礎・基本を重視するカリキュラムのあり方」「理科と総合学習との関連」「子どもの視点に立った教材・教具の開発」「子どもたちに理科の有用性を実感させる指導のあり方」などについて活発な意見が出された。
生活科教育
他学年との交流を中心とし、人とのかかわりを深めた取り組みや、校内や地域の素材・人材を中心とした実践が数多く報告された。
討論では、「幼保小の連携のあり方」「他教科との具体的な関連方法」「気付きの質を高めるための手だて」などについて活発な意見が出された。
美術教育
「思いや考えにまで気付くかかわり合い・学び合い」と「思いや考えにもとづき、表現を探究できる題材」をテーマに実践が報告された。かかわり合いを多く制作過程に取り入れた共同制作の実践や、子どもの思いを深めるために、美術館で鑑賞を行った実践、感動を絵で表現する題材など、「子どもたちの思い」が制作と結びついた実践が報告された。
音楽教育
小学校低学年では、楽しみながら音楽を学ぶために身体表現やリズム打ちを行い、友だちとかかわり合いながら表現の工夫に取り組む実践が報告された。小学校中・高学年では、自分の思いを表現するために歌い方を工夫する実践や、曲の特徴をとらえ、表現に生かす実践が報告された。中学校では、メッセージカードを通して歌声のよさに気付く実践や、手遊びうたをつくる実践、グループ学習やパート練習を通してリーダーを育てていく実践などが報告された。
技術教育
子どもが生活を豊かにするための知識や技能を習得し、活用していく力を身につけることを目的とした実践が多く報告された。情報モラルの学習では、擬似体験を多く取り入れることにより、生活の中での問題を自らの力で解決し、よりよい生活の仕方を考えていくことができた実践が報告された。これらの実践をもとに、具体的な討論を行うことができた。
家庭科教育
小学校・中学校ともに、家庭科教育を通して、よりよい家庭生活をつくり出そうとする態度や生活を高める実践力の育成をはかる工夫がなされた実践が多くみられた。栄養士との連携を生かした実践、ペア学習による一人一実習を効果的に取り入れた実践、弁当づくりを通して、望ましい人間関係をつくり出す工夫を取り入れた実践などが報告された。
保健体育(保健)
「子どもが生活の主体となるための健康教育をどうすすめていくか」をテーマに、さまざまな健康課題に対応した指導の方法や教材・教具を工夫した実践、保健学習や総合学習の取り組み、体験活動を重視した実践などが報告された。報告を通して、健康に対する意識の高まりや課題解決能力が着実に育ってきている様子が感じられた。
保健体育(体育)
「体育でどのような子どもを育てるか、自ら考え行動する子どもをどう育てるか」を大テーマとし、「学年に応じた体力向上と技能習得」「体育学習における仲間とのかかわりで身につけさせたいこと」を研究主題として、発表・討論が行われた。討論では、体力向上や技能習得のための継続的、段階的な指導のあり方や、体育における仲間とのかかわりの意義について、活発な意見が出された。
自治的諸活動と生活指導(小学校)
自主的・実践的な態度を育てる学級や異学年集団、児童会での実践が多く報告された。また、個のちがいを認め、互いのよさを認め合う活動を通して、温かい人間関係を築き、互いに高め合う実践も多く報告された。こうした子どもたちが行うさまざまな活動のあり方や意義について討論をすすめるとともに、子どもたちの実態をふまえた教員の支援のあり方について熱心な討論が展開された。
自治的諸活動と生活指導(中学校)
人権を考える活動・奉仕活動・コミュニケーション能力を高める活動を中心にした実践から、子どもの主体的な活動が多く見られる学級活動、生徒会活動の実践が報告された。また、よりよい人間関係づくりをめざしたQ-U分析を取り入れた実践も報告された。これらの実践報告をもとに、教員の思いや連携・個々への接し方・生徒会活動の意義などについての討論が深められた。
能力・発達・学習と評価
子どもたちに必要な自己を表現する能力の向上をめざした実践、学び合う学習集団づくりをめざした実践が報告された。自己を表現する力を育てる取り組みでは、「読む」「書く」「話す・聞く」を段階的に系統立てて取り組んだ実践が報告された。学び合う学習集団づくりをめざした取り組みでは、学習形態や子どもどうしのかかわり合い方、教具を工夫しながら取り組んだ実践が報告された。
障害児教育
「豊かに生きるための力を身につけるには」というテーマのもとにリポートが報告された。子どもたちの将来像を描き、人とかかわる力や、コミュニケーション能力を高めるための実践、子どもたちの学習意欲を高めるために、教材・教具や環境施設を工夫した実践などが報告された。
進路指導
中学校においては、主体的に自らの将来について考え、進路選択する力の育成をめざした実践、小学校においては、自己の生き方を見つめる力やコミュニケーション能力を育成しようとする実践などが報告された。どの実践も、子どもたちの「生きる力」をどのようにして育成していくかという今日的課題をテーマにした内容であり、長期間にわたる計画を立て取り組んでいる内容が多く報告された。
教育条件整備
「子どもの学習権の保障をどうすすめるか」を主題に、安心・安全な学校づくりにかかわる環境整備、特別支援や日本語教育が必要な子どもたちへの指導にかかわる条件整備、さまざまな教科指導にかかわる条件整備、言語活動にかかわる条件整備について報告された。安心・安全な学校づくりのために、現状や問題点をアンケートによる調査報告によってまとめたリポートや、授業実践をもとに充実した学習指導を行うための方法や形態、問題点を探るリポートなどが報告され、熱心な討議が行われた。
過密・過疎、へき地の教育
地域素材や地域人材を有効に活用し、成果をあげた実践、地域との交流活動について追究した実践、離島での小中連携・地域連携についての実践など、へき地校の特色を生かしたリポートが報告された。へき地ならではの地域のよさ、学校のよさ、家庭のよさを最大限に生かした学習指導に取り組む姿勢、へき地校の抱える問題に真摯に取り組み、特色ある学校づくりを通して克服していこうとする意欲が強く感じられ、教育の原点といわれるへき地教育に対しての取り組みの充実がうかがえた。
環境問題と教育
地球温暖化について取り上げ、自分の生活の中で二酸化炭素排出削減に取り組んだ実践、ゴミや残菜といった身の回りの問題を取り上げ、リサイクルに取り組んだ実践、身近な自然を取り上げ、環境保護活動に取り組んだ実践などが報告された。身近な環境を取り上げることで子どもたちの意識を環境にむけ、環境を守るための活動に継続して取り組むことができる子どもを育成しようと、各教科や総合学習の中で積極的に実践されている様子がうかがえた。
情報化社会の教育
情報化社会を生きていくために、子どもたちの情報活用能力をいかに育成するかという実践が多く報告された。また、さまざまな情報メディアを有効に活用し、子どもたちにとってわかりやすい授業をめざした実践も報告された。さらに、昨今、社会的に緊急の課題となっている情報モラルの育成についての実践も報告がされた。
読書・学校図書館
学ぶ意欲や楽しさを高めていくために、学校図書館を積極的に活用した実践報告が多くされた。担任が司書教諭や図書館司書と連携した実践も多く、学校全体や地域で系統的に指導され、広がりを感じた。また、読書環境の整備・充実への継続的な取り組みや読書の幅を広げるための工夫などの実践報告もあり、工夫次第で子どもたちの読書意欲は増すことを感じた。
総合学習
地域の産業について調べ、地域にすすんでかかわる子どもを育てる実践や、身近な自然にかかわり周囲の環境に働きかける実践、さまざまな体験活動を通して学び方や生き方を高める実践、食育・福祉・健康など現代社会における今日的課題に取り組む実践、国際理解に取り組む実践が報告された。実践の内容は多岐にわたったが、どのリポートも、子どもの実態を的確にとらえ身につけさせたい力を明確にするとともに、めざす子どもの姿に迫っていく様子が報告されていた。