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第58次 教育研究愛知県集会

2008/10/18

1 国語教育 文学その他
作文その他
2 外国語教育
3 社会科教育 小学校
中学校
4 数学教育 算数
数学
5 理科教育 物理・化学
生物・地学
6 生活科教育
7 美術教育
8 音楽教育
9 技術教育
 
10 家庭科教育
11 保健体育 保健
体育
12 自治的諸活動と生活指導 小学校
中学校
13 能力・発達・学習と評価
14 障害児教育
15 進路指導
16 教育条件整備
17 過密・過疎、へき地の教育
18 環境問題と教育
19 情報化社会の教育
20 読書・学校図書館
21 総合学習

基調報告より

 現在、各学校では、子どもたちの将来を見据えて、今、目の前の子どもたちに何が必要なのかを考えながら、日々教育活動に取り組んでいます。そして、ゆと りとふれあいの中で子どもたちに主体性・創造性を育み、自ら課題を見つけ、判断し、行動できる「生きる力」を身につけさせることをめざした実践研究がすす められています。
 これまでの57次にわたる教育研究の中で、わたくしたちは夢と希望あふれる教育の創造をめざし、子どもたちを中心にすえた数多くの教育実践を積み重ねて きました。そして、学習指導要領を大綱的基準としてとらえ、子どもの実態とそれぞれの学校・地域の特色を生かした教育課程を編成し、教育現場から発信でき る研究をすすめてきました。また、保護者の意識調査を実施し、今日的な教育課題を明らかにするとともに、各地域で教育対話集会や学習会を行い、保護者や地 域の方々と意見交換をし、子どもたちの生きる力を育む取り組みについての合意形成をはかっています。そして今後も、子どもたちに学ぶ喜び・わかる楽しさを 保障するため、学校・地域の特色を生かした主体的・創造的な教育課程編成について、さらに研究をすすめ、「各学校における教育課程編成への指針~ゆたかな 学びにむけて~」を発刊し、発信していきます。
 ところが、中央では、「学力低下」「ゆとり教育」批判を受け、「全国学力・学習状況調査」の実施や学習指導要領の改訂など、知識偏重教育への揺り戻しと もとれる施策が少なくありません。これらの中央主導の施策によって、子どもたちや学校が画一的に評価され、序列化や競争を招いたり、これまで築き上げてき た学校と地域の結びつきが失われたりしてしまうことが危惧されています。知識ばかりの「学力」競争で置き去りにされ、「学力低下」ではなく「学ぶ意欲と希 望が低下」してしまった子どもたちが増えているにもかかわらず、点数や成績だけで子どもたちを比較したり、競争に駆り立てたりすることが、子どもたちの健 やかな成長につながるとは到底考えられません。このようなときだからこそわたくしたちは、すべての子どもたちに「生きる力」を育むために、学校・家庭・地 域が連携をとり、地域ぐるみの教育をすすめていかなければなりません。
 今次教研においても、ゆとりとふれあいの中で「わかる授業・楽しい学校」の実現をめざし、「学びの質を追究し、子どもたちの学ぶ喜び・わかる楽しさを保 障する教育課程編成活動をすすめる」「学校・地域の特色を生かし、人・自然・文化などとのかかわりを大切にした創意あふれる教育課程編成活動をすすめる」 の2点を研究推進の重点として提起しました。わたくしたちがすすめる教育改革は、日々の教育実践の中で成長していく子どもたちの姿で示すべきだと考えま す。子どもたちの学ぶ喜びやわかる楽しさを追究した授業実践を行うこと、学校や地域の特色を生かした学習活動の成果を確認し合い、子どもたちに本当に必要 な力とは何かを議論していくことは、子どもたちの未来に責任をもつ教員として重要な使命であると考えます。各分科会においては、実践研究の報告をもとにし て活発な論議を展開するとともに、その成果を各単組・各分会にもち帰り、還流をはかっていただくことを大いに期待します。
 また、本日の特別集会では、子どもたちの現状や最近の教育をめぐる情勢をふまえ、「学校・家庭・地域の協働によって育てる学力とは」と題して、シンポジ ウムを行います。子どもたちが未来を切りひらくための「ゆとり教育」の意義や、来年度からの移行措置の始まる新学習指導要領の示す「学力」などを論議し、 子どもたちにとって、本当に育てなければならない学力について、学校・家庭・地域の共通理解をはかりたいと考えています。
 最後になりましたが、この教育研究愛知県集会が愛知の教育のさらなる推進のため、そして何よりも目の前の子どもたちの健やかな成長のために、実り多いものとなることを祈念し、本集会開会にあたっての基調報告といたします。

分科会

国語教育(文学その他)

 目の前の子どもたちを見つめ、どのように読む力をつけさせるべきかを考え、提案されたリポートをもとに、討論が展開された。討論では教材の特性、2つの物語教材を続けて扱うこと、教材が対象学年の発達段階に即しているかについて話し合われ、教員が教材の力を見極めることの大切さ、国語教員として「読み方を教える」ことの大切さが確認された。

国語教育(作文その他)

 表現の指導・言語の指導を通して、目の前の子どもたちの実態を見つめ、どのような子どもを育てるのか、文字言語・音声言語のよさを生かして、どのような力をつけていくのかについて討論が展開された。じっくり思考できることや、文字として残すことができることなどの文字言語の特長や、音声表現の教育では話すことで考えが深まり、話す価値のある題材を選ぶことが重要であることが確認された。

外国語教育

 「少人数指導・小学校外国語活動」「話すこと(会話型)」「話すこと(スキット発表・スピーチ型)」「読むこと・書くこと」という4本の柱をもとに、子ども一人ひとりの学習意欲を高め、積極的にコミュニケーションをはかろうとする態度や能力の育成をめざした地道な研究実践が数多く紹介された。

社会科教育(小学校)

 子どもたちの追究意欲を高めるために、身近な地域の産業や事象を素材として活用し、調査・体験活動の時間を保障した上で発表の仕方を工夫した実践、地域の歴史事象をどう教材化し、どのような社会認識を養っていけばよいのかという課題に取り組んだ実践などが報告された。討論では、子どもたちの社会認識を高めていくためにはどのような教員の支援が必要であるかなどについて熱心に話し合われた。

社会科教育(中学校)

 子どもたちが主体的に取り組む学習活動のあり方についての実践や、社会に対する見方・考え方を深める学習指導のあり方についての実践、身近な素材を教材化して、地域社会の問題点を取り上げ、問題解決方法について話し合ったり、行動化に結びつけたりする実践、学ぶ喜びを感じることができるような学習方法を工夫し、共生社会をめざした生き方について考えさせる実践などが多く報告された。

数学教育(算数)

 「学習意欲の育成」「指導形態の工夫」「数学的な見方・考え方の育成」「教材の工夫」「生活と結びつけた授業の工夫」の5本の柱立てで、実践の報告や討論が行われた。どの報告からも「できる、わかる授業」に主眼を置き、子どもを主体とした学習展開が工夫された実践の様子がうかがわれた。討論では、子どもの意欲を引き出す教材の工夫などについて話し合われた。

数学教育(数学)

 「確かな学力の定着」「数学的な見方・考え方の育成」「自ら学ぶ力・意欲の育成」「学習形態の工夫」の4本の柱立てで、実践の報告や討論が行われた。自ら考え、意欲的に問題に取り組もうとする子どもの育成をめざすリポートをはじめ、基礎・基本を定着させる実践、また、少人数指導やグループ活動を取り入れるなどの指導形態や指導方法を工夫した実践など、多岐にわたる実践が報告された。

理科教育(物理・化学)

 「子どもの発達段階をふまえた教育課程編成のあり方」「自然概念形成に有効な教材・教具の開発、指導の工夫」などの柱立てのもと、討論が行われた。科学的な思考力を養う指導方法や理科の基礎・基本を定着させる指導方法についての意見が出された。また、小学校の段階における粒子的考え方の導入やその必要性についての意見も出されるなど、活発な話し合いが行われた。

理科教育(生物・地学)

 子どもの事物・現象に対するイメージを明確にする実践、身近な自然に目をむけさせたり、利用したりした実践、話し合いにより考えをつくりあげたり、共有したりする実践などが報告された。
 討論では、「基礎・基本を重視するカリキュラムのあり方」「理科と総合学習との関連」「子どもの視点に立った教材・教具の開発」「子どもたちに理科の有用性を実感させる指導のあり方」などについて活発な意見が出された。

生活科教育

 他学年との交流を中心とし、人とのかかわりを深めた取り組みや、校内や地域の素材・人材を中心とした実践が数多く報告された。
 討論では、「幼保小の連携のあり方」「他教科との具体的な関連方法」「気付きの質を高めるための手だて」などについて活発な意見が出された。

美術教育

 「思いや考えにまで気付くかかわり合い・学び合い」と「思いや考えにもとづき、表現を探究できる題材」をテーマに実践が報告された。かかわり合いを多く制作過程に取り入れた共同制作の実践や、子どもの思いを深めるために、美術館で鑑賞を行った実践、感動を絵で表現する題材など、「子どもたちの思い」が制作と結びついた実践が報告された。

音楽教育

 小学校低学年では、楽しみながら音楽を学ぶために身体表現やリズム打ちを行い、友だちとかかわり合いながら表現の工夫に取り組む実践が報告された。小学校中・高学年では、自分の思いを表現するために歌い方を工夫する実践や、曲の特徴をとらえ、表現に生かす実践が報告された。中学校では、メッセージカードを通して歌声のよさに気付く実践や、手遊びうたをつくる実践、グループ学習やパート練習を通してリーダーを育てていく実践などが報告された。

技術教育

 子どもが生活を豊かにするための知識や技能を習得し、活用していく力を身につけることを目的とした実践が多く報告された。情報モラルの学習では、擬似体験を多く取り入れることにより、生活の中での問題を自らの力で解決し、よりよい生活の仕方を考えていくことができた実践が報告された。これらの実践をもとに、具体的な討論を行うことができた。

家庭科教育

 小学校・中学校ともに、家庭科教育を通して、よりよい家庭生活をつくり出そうとする態度や生活を高める実践力の育成をはかる工夫がなされた実践が多くみられた。栄養士との連携を生かした実践、ペア学習による一人一実習を効果的に取り入れた実践、弁当づくりを通して、望ましい人間関係をつくり出す工夫を取り入れた実践などが報告された。

保健体育(保健)

 「子どもが生活の主体となるための健康教育をどうすすめていくか」をテーマに、さまざまな健康課題に対応した指導の方法や教材・教具を工夫した実践、保健学習や総合学習の取り組み、体験活動を重視した実践などが報告された。報告を通して、健康に対する意識の高まりや課題解決能力が着実に育ってきている様子が感じられた。

保健体育(体育)

 「体育でどのような子どもを育てるか、自ら考え行動する子どもをどう育てるか」を大テーマとし、「学年に応じた体力向上と技能習得」「体育学習における仲間とのかかわりで身につけさせたいこと」を研究主題として、発表・討論が行われた。討論では、体力向上や技能習得のための継続的、段階的な指導のあり方や、体育における仲間とのかかわりの意義について、活発な意見が出された。

自治的諸活動と生活指導(小学校)

 自主的・実践的な態度を育てる学級や異学年集団、児童会での実践が多く報告された。また、個のちがいを認め、互いのよさを認め合う活動を通して、温かい人間関係を築き、互いに高め合う実践も多く報告された。こうした子どもたちが行うさまざまな活動のあり方や意義について討論をすすめるとともに、子どもたちの実態をふまえた教員の支援のあり方について熱心な討論が展開された。

自治的諸活動と生活指導(中学校)

 人権を考える活動・奉仕活動・コミュニケーション能力を高める活動を中心にした実践から、子どもの主体的な活動が多く見られる学級活動、生徒会活動の実践が報告された。また、よりよい人間関係づくりをめざしたQ-U分析を取り入れた実践も報告された。これらの実践報告をもとに、教員の思いや連携・個々への接し方・生徒会活動の意義などについての討論が深められた。

能力・発達・学習と評価

 子どもたちに必要な自己を表現する能力の向上をめざした実践、学び合う学習集団づくりをめざした実践が報告された。自己を表現する力を育てる取り組みでは、「読む」「書く」「話す・聞く」を段階的に系統立てて取り組んだ実践が報告された。学び合う学習集団づくりをめざした取り組みでは、学習形態や子どもどうしのかかわり合い方、教具を工夫しながら取り組んだ実践が報告された。

障害児教育

 「豊かに生きるための力を身につけるには」というテーマのもとにリポートが報告された。子どもたちの将来像を描き、人とかかわる力や、コミュニケーション能力を高めるための実践、子どもたちの学習意欲を高めるために、教材・教具や環境施設を工夫した実践などが報告された。

進路指導

 中学校においては、主体的に自らの将来について考え、進路選択する力の育成をめざした実践、小学校においては、自己の生き方を見つめる力やコミュニケーション能力を育成しようとする実践などが報告された。どの実践も、子どもたちの「生きる力」をどのようにして育成していくかという今日的課題をテーマにした内容であり、長期間にわたる計画を立て取り組んでいる内容が多く報告された。

教育条件整備

 「子どもの学習権の保障をどうすすめるか」を主題に、安心・安全な学校づくりにかかわる環境整備、特別支援や日本語教育が必要な子どもたちへの指導にかかわる条件整備、さまざまな教科指導にかかわる条件整備、言語活動にかかわる条件整備について報告された。安心・安全な学校づくりのために、現状や問題点をアンケートによる調査報告によってまとめたリポートや、授業実践をもとに充実した学習指導を行うための方法や形態、問題点を探るリポートなどが報告され、熱心な討議が行われた。

過密・過疎、へき地の教育

 地域素材や地域人材を有効に活用し、成果をあげた実践、地域との交流活動について追究した実践、離島での小中連携・地域連携についての実践など、へき地校の特色を生かしたリポートが報告された。へき地ならではの地域のよさ、学校のよさ、家庭のよさを最大限に生かした学習指導に取り組む姿勢、へき地校の抱える問題に真摯に取り組み、特色ある学校づくりを通して克服していこうとする意欲が強く感じられ、教育の原点といわれるへき地教育に対しての取り組みの充実がうかがえた。

環境問題と教育

 地球温暖化について取り上げ、自分の生活の中で二酸化炭素排出削減に取り組んだ実践、ゴミや残菜といった身の回りの問題を取り上げ、リサイクルに取り組んだ実践、身近な自然を取り上げ、環境保護活動に取り組んだ実践などが報告された。身近な環境を取り上げることで子どもたちの意識を環境にむけ、環境を守るための活動に継続して取り組むことができる子どもを育成しようと、各教科や総合学習の中で積極的に実践されている様子がうかがえた。

情報化社会の教育

 情報化社会を生きていくために、子どもたちの情報活用能力をいかに育成するかという実践が多く報告された。また、さまざまな情報メディアを有効に活用し、子どもたちにとってわかりやすい授業をめざした実践も報告された。さらに、昨今、社会的に緊急の課題となっている情報モラルの育成についての実践も報告がされた。

読書・学校図書館

 学ぶ意欲や楽しさを高めていくために、学校図書館を積極的に活用した実践報告が多くされた。担任が司書教諭や図書館司書と連携した実践も多く、学校全体や地域で系統的に指導され、広がりを感じた。また、読書環境の整備・充実への継続的な取り組みや読書の幅を広げるための工夫などの実践報告もあり、工夫次第で子どもたちの読書意欲は増すことを感じた。

総合学習

 地域の産業について調べ、地域にすすんでかかわる子どもを育てる実践や、身近な自然にかかわり周囲の環境に働きかける実践、さまざまな体験活動を通して学び方や生き方を高める実践、食育・福祉・健康など現代社会における今日的課題に取り組む実践、国際理解に取り組む実践が報告された。実践の内容は多岐にわたったが、どのリポートも、子どもの実態を的確にとらえ身につけさせたい力を明確にするとともに、めざす子どもの姿に迫っていく様子が報告されていた。

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学校・家庭・地域の協働によって育てる学力とは -第58次

2008/10/18

シンポジウム

 特別集会においては、「子どもたちの健やかな成長をめざして -学校・家庭・地域の協働によって育てる学力とは-」をテーマにシンポジウムを行いました。コーディネーターに赤池浩章日本教職員組合 国際・広報部長を迎え、学識経験者・保護者・教員のそれぞれの立場から子どもたちが必要としている力は何か、そのために学校・家庭・地域はどのように子どもたちにかかわったらよいのかについて意見交換し、共通理解をはかることができました。

はじめに

赤池さん

 今日の集会では、子どもたちの現状や最近の教育をめぐる情勢をふまえて、子どもたちが必要としている学力とは何か、そのために学校・家庭・地域は子どもたちの成長にどのようにかかわっていったらよいかについて考えていきたいと思います。

子どもたちの現状をどうとらえるのか?

保護者代表

 保護者という立場で話をさせていただければ、学力低下という言葉は、あまり身近な言葉ではないと思います。学力低下といっても、子どもが持ってきたテストの点数が50点だった時に、これは学力の低下かもしれないと、本人が悪いのか、先生が悪いのか、学校が悪いのか、そんな感覚ぐらいでしかとらえていないような気がします。保護者は、自分の子どもに関しては非常に過保護になりがちです。80点より85点だ、85点より90点だとなりますが、それぞれ学力のとらえ方にも違いがあると思うので、学力低下という言葉は、すごく疎遠な感じがします。

教員代表

 総合学習が始まって、調べた事を発表する機会が増えてきました。子どもたちは、資料をもとに結構上手に説明します。でも、その内容を聞いていると、インターネットで調べたことをまる写しにしていて、本当に理解して、自分で考えているのかなと疑問に思うことがあります。また、算数の学習などにおいても、計算の仕方はよく身についているのですが、何か具体的な場面で数量の関係を求めたり、今まで学んだ考え方を生かして、別の新たな課題を解くのに工夫したりすることが苦手な様子を見せる子が多いように感じます。それらは、知識・理論こそ身についていても、それを活用する力や自ら課題を解決する力、多様なものの見方や考え方を比較したり検討したりする力が十分に育っていないからだと思います。

学識経験者

 わたくしたち学校教育に携わる者としては「多くの子どもたちが社会人として身につけなければいけない最低限のものを身につけさせるのだ」ということに徹することが大事だと思っています。いわゆる集団の中で、子どもたちを培っていくわけですから、人の苦しみだとか、思いやりだとか、そのような事も含めて人間としてどのように育てていくかということ、全体をとらえることが必要だと思います。だから学力低下ということだけに巻き込まれるのではなくて、一体、集団の中で何を身につけさせていくべきかということをやっぱり重点的に考えなくてはいけないと思います。学力もその中の一つではありますが、そういったことで全人格を形成させるために何が必要かという観点で、もう一度教育現場、そして子どもたちの様子を見つめ直す、そのような機会にしていくべきだろうと思っています。思いやりや人とのかかわり方だとか、そういったところにも力を入れていく、それが広義の学力と言いますか、学ぶ力、生きていく力で必要なことではないかと痛感しています。

どのような学びが必要なのか?

赤池さん

親から見て学力というのは、わかりやすい数値の部分だと感じました。今、言われている学力の低下が非常に見えやすい部分、はっきり数値で表されている部分だけが先行してしまっているというような気がします。一方で、中身の部分で悩んでいる学校の様子、学校現場の様子があるということも感じました。ここで一番必要なもの、子どもたちに足りない部分、どういう学習が必要なのか、話をうかがいたいと思います。

学識経験者

 子どもたちに「どんな目的で勉強するのか」ということを、大人として言わなければならないと思います。教員として、発達段階に応じて、「こういうことを指導しなければ」と思ったとき、自分なりの考えをもって指導してほしいと思います。勉強の目的を感じさせることで、がんばる自分、目的をもってがんばる自分というものへと育てていけると思います。どこの学校でも、子どもたちに何か目的をもたせてやらせるということが必要であると思っています。

教員代表

 一昨年、本校で60周年式典を行いました。その式典で、今回ノーベル賞を受賞された先生を体育館に招いて、講演をしていただきました。その時の講演で、ファーブルが蚕の研究をしている時に蚕が病気になり、困っていたら、ファーブルのもとに勉強に来ていたパスツールが蚕の知識がなくても病気の原因をつきとめ、解決したという話をしてくれました。そのことから子どもたちに「虫のことを何でも知っている人が解決できなかったことを虫について何にも知らない人が解決できた。つまり原理原則を見抜いて、それを他に応用する力があれば、それは自分が知らないことであっても、未知のことであっても、解決できるんだよ。その後、生き抜いていけるんだよ」というメッセージをいただきました。やはり、今、生きる力っていうのは、単なる知識・理解ではなくて、それを応用して、他のことまで解決していける力が、本当に生きる力として大事なんだと思います。

保護者代表

 企業的な部分から言いますと、企業というのは利益を追求して利益を上げるのが目的とよく言われます。しかし、商業道徳というものがあります。昨今は、お金さえ手に入れば何をしてもよいというようなスタイルが、社会的にあふれている状況です。やはり、人と人とが寄り添って、世の中という器の中で生きていくには、必ず互いが寄り添う道徳みたいなものが必要になってくると思います。これは、企業だろうが、家庭だろうが、地域だろうが、学校だろうが、全部一つのルールというものがあるので、それをきちんとできるかどうかというのが、根本的な問題だと思います。まずは、人として基本的なことを学ばせることを一番大切にしなければならないと思います。

「学校・家庭・地域の協働によって育てる学力」についての取り組み

教員代表

 年度目標を学校・家庭・地域の協働のキーワードにした取り組みを紹介させていただきます。本校では年度目標を学校の願いからだけではなくて、家庭の願いや地域の願いとすり合わせて設定しています。願いを知る手がかりは、保護者アンケートや学区協力委員の方々の声などです。このようにして、本校では協働の第一歩は共通・共有の目標をもつことととらえています。つまり、年度目標こそ、協働へのキーワードであると考えます。本校の年度目標は『知・徳・体』の3つを柱としています。本年度における「知」の『自分の考えをもち、深める』というのは、最初にもった一念的な考えがいろいろな見方や考え方をふまえた考えになるということです。「徳」の『ニコニコ言葉』というのは、言われた人が嬉しくなるような言葉です。「体」の『すすんで遊ぼう』というのは、学校にいる間、1日30分間は外で遊ぼうというものです。これが学力とどうかかわるのでしょうか。「知」の目標は、知識・技能を身につけ、それを活用する能力ですから、学力の中心となる部分と言えます。「徳」と「体」の目標は一見学力とは関係なさそうにみえますが、そうではないと思います。ニコニコ言葉が増えれば、安心感が生まれ、何でも言える関係がつくられます。また、すすんで遊べば、遊びを通じて仲間づくりができます。学びは学び合える集団において生まれます。よって学び合える集団作りは学力を支える大切な部分と言えます。 では、学力とは何でしょうか。本校では自ら学ぼうという関心・意欲・態度、習得した知識・技能、それを活用する力、これらをトータルしたものと考えています。活用する力を育てるためには、書くことで考えをもつ、話し合って合流する、また書いて再考するという3つのステップで取り組んでいます。そして、これらの学習が成立する基盤として、学び合える集団づくりが不可欠なのです。こうしたことを学校全体で、そして、家庭や地域で共通理解のもと、すすめていくことが大切であると考えます。

学識経験者

 教職員の共通理解というのは当然ですが、保護者にもその思いになっていただけるような手だてが具体的に講じられているということが、極めて大きいと思います。ですから共通理解というのは、理解だけすればよいのではなくて、協働行動に結びつけていただくものです。目標を達成するための具体的な活動がきちんと提起されていて、親もそれを見やすい、子どもの成長の過程も見やすい、だから親もきちんと理解をして信用してくれるということが、きちんと系統的になされているということは、多くの学校の参考になるのではないかなと思います。

保護者代表

 協働の第一歩は共通の目標をもつことと、頭ではわかっていても、なかなか実践できないこともあると感じています。 子どもを中心にすえて何が一番よいのかという話をきちんとしなければ、学力だ、道徳だと言ってもおそらく何も言うことはできないということを地元小学校のPTA会長をやったときに感じました。結局、何かをする時には協働していかないと、うまくいかないです。それぞれお互いがもっているものを出し合わない限りは、なかなかうまくいかない、そういう意味で目標を1つもって、みんなでそれをどうしたらよいかと考えるのは、非常によいことだと思いました。

赤池さん

 わたくしも通知表を渡す時の懇談会で、この項目についてはこういう観点で見ています、これについてはこういう観点で見ていますと、保護者の方々に説明して渡していたのですが、保護者の方が「どうして、それを早く言ってくれなかったの」とおっしゃいました。具体的に話をしてもっと早くわかっていれば、見方も変わったのではないかということです。今、教員代表の方の話にもあったように、どこの学校でも学校便りなどで、目標を渡しているとは思うのですが、実際にどのようにして一緒にやっていきたいのだということを、メッセージとして言葉で顔を見ながらちゃんと伝えていく、そういう努力をする必要があるのではないかと感じました。

フロアからの意見をまじえて

フロア(教員)

 わたくしたち教員は学習指導要領をあくまで大綱的基準としてとらえ、各学校や学級の実態に応じて教育課程を編成していく必要があると感じています。その時、新しい学習指導要領をどのように使っていったらよいのか、ぜひ参考になることがあれば教えてください。

フロア(保護者)

 子どもたちの健やかな成長として、我が家の方針は子どもたちに、まず考えて、調べろといつも言っています。まずは、こだわれということです。例えば、話題になっております蒟蒻ゼリーの話を家族としていたとき、「どうして蒟蒻ゼリーはだめで、餅はいいんだろう。餅でも喉に詰まらせて亡くなられることもあるのに」という話になりました。蒟蒻ゼリーはいつも買っていますが、それを安心して食べるにはどうしたらよいかと考えたときに、まず、凍らせて、スプーンを使って食べる。そのように食べ方を自分たちで工夫して考えろということです。現在は、かなり社会自体がメディアに振り回され過ぎているような気がするんです。蒟蒻ゼリーだけがいけないというとらえ方は教育としてよくないと思います。こうしたことをもっと学校や家庭、地域で話し合えればいいと思いますが、このことについて、ご意見があったらうかがいたいと思います。

フロア(保護者)

 学力をつけさせるために目標を設定すると思いますが、それは子どもたちが納得して、はじめて、その目標に向かってすすんでいくものだと感じています。その目標を子どもたちに納得させるために、どのような工夫をされているのかを教えていただきたいと思います。

学識経験者

 学習指導要領について、今回の改訂が出たときに、今、子どもたちに何をしてあげることが大切かということからリンクさせていこうと考えました。学年任せだったり、学級任せだったりするものを、全校の取り組みとしてできないかと考えています。ですから、学習指導要領が変わり、子どもの実態をきちんと見た上で、これをこうするということを考える必要があるのではないかと思います。

保護者代表

 わたくしも個人的にいろいろメディアとかかわりがあったのですが、メディアは、やはりうがった見方をされるケースが非常に多いと思います。ちょうどタイムリーに、寒天ゼリーをつくっている方が、「蒟蒻イモがだめだったら、寒天でつくったらどう」って、笑い話のように言っていました。ちなみに、わたくしの家では、やはり凍らせて食べます。

学識経験者

 やはり目標をもたせるというのはすごく大切なことだと思います。先程言った「どんな目的で勉強するのか」という遠い目標を言っても子どもたちは、なかなかわからないのです。だから一つひとつの活動で「これができるようになるとよいね」という、子どもが実感できるような形で取り組ませるとよいと思います。自分も納得できた、やれたという実感を子どもたちにもたせていくこと、その子なりに実感できるものを考えてあげることが大事だと思います。つまり、成功体験をいろいろ経験させてやることだと思います。

学校・家庭・地域の協働

赤池さん

 子どもたちにとって必要な学力を、体験や経験も含めて身につけさせるようにどのような協働を行っているかを話していきたいと思います。

学識経験者

 まず地域との連携は具体性が無いとだめだと思います。保護者の方たちが、学校が子どものためにやっているということを、十分、視覚で、実体として見ることができれば、これが協働していくきっかけになるなと感じました。学校の取り組みはこうです、ですから信頼してくださいということが基盤になって、はじめて一緒にやっていこうという気持ちにきっとなってくれるのではないかなと思います。

教員代表

 私の勤めている学校の視点から考えると、協働ということを考えたときに二つの側面があるのではないかと思います。まず一つは運営的な面です。子どもたちの学びのためのゲストティーチャーであったり、学芸会や音楽会などのお手伝いやピアノ伴奏をしていただく地域ボランティアであったり、地域のさまざまな方を学校教育に生かすという側面があると思います。もう一つは学校で学んだことを、家庭や地域の中で力を伸ばすような力の面での学力だったり子どもがもつ力の面でのこともあったりすると思います。お互いやっていることを共通理解して、家庭で大事にしつけしていることを学校でもしつけする、学校で取り組んでいることをきちんと家庭にもわかっていただいて、そういう力が伸びるような声かけであったり、働きかけであったり、励ましであったりをしていただく、そういう側面も大事ではないかと思います。

保護者代表

 わたくしは市の総合計画の委員もさせていただいていますが、その中でも、協働という言葉が多く出てきます。これからは市民が主役の社会だということで、行政と市民との協働ということが頻繁に言われています。そのときに話をさせてもらったのは、協働するには前提条件として、あらゆる情報の公開、共有がどうしても必要だということです。それと同じで、学校・家庭・地域が協働するためには、まず情報を共有する、公開するところから始めることが大切だと思います。そして、そこから保護者は、やはり学校の先生をきちんと信頼することが大事だと思います。

まとめ

教員代表

 やっぱり連携というのは、それぞれ自分たちがやっている役割を変えないで、ちょっと手伝いできる所をやる。でも協働ということになると、それぞれ共同作業で取り組んで、自分たちがそれぞれでやっている独立したものだけではなくて、共同で何かをつくり上げていくという所が連携と協働の違いではないかと思いました。子どもは、地域の中で生きているので、地域の家庭と学校と、地域の大人で育てているものなので、そういう地域に根差した学校というものをつくっていけたらいいなと思います。

保護者代表

 学校に対して、ダイレクトに何かをやろうとか、どうにかしようとか、そんな難しいことは別に考えなくても、何となく自分の子どもたちも含めて、子どもたちにとってよいなと思うものにどんどん取り組んでいけばよいと思っています。保護者を含めて地域は、学校を基軸にして、外側からフォローしていく感じのものを考えていかなくてはならないと思います。保護者や地域、学校が何か考えて、楽しく笑顔でやっているというのが大事であり、大人も子どもも、みんなが笑顔で生活できるように協働していくことが大切であると思います

学識経験者

 現在、やろうとしている協働の一つの具体的な例として紹介しますと「矢田・砂田橋すこやかスクールロード」という旗をつくりました。9校の学校・園がこの活動に参加をします。名古屋ドーム前の地下鉄から、砂田橋までの一区間の周辺に9つの学校・園があります。たまたま、うちの学校の前をいろいろな学校の子どもが通ります。それで、あいさつをし始めたら、みんなあいさつができるようになったんです。これはすごいなと思って、これらの学校の教頭先生方に「何とか、あいさつからみんなで一緒にやりませんか」と相談に行ったら、みなさん賛同してくれて、区政協力委員長さんも賛同してくれてやろうということになりました。これは名古屋市立と独立法人と私立との壁を越えてやっていく活動で、幼稚園から高校生まで含めた活動になります。基本的には教員主導ではなくて、児童生徒会議を開いて、子どもの中でやれることをやっていこうということで始めました。あいさつ運動から広げて、学校・家庭・地域が1つになっていければいいと思っています。もちろん、人間社会ですので、その中で、お互いを信頼するところから始めていかなければならないと思います。同様に、協働で育てていく学力もお互い信頼がなければ身につかないということをわたくしは最後に申し上げたいと思います。

赤池さん

 子どもたちがわかりたいとか、できるようになりたいとか、知りたいとかという思いは、今も昔も変わらないと思います。もし変わっているとすれば、それにかかわっている大人たち、わたくしたちです。そのかかわり方はどうなのか、わたくしの子どもの時代より、もう少し前の時代には、本当に教育の話は、学校に任せた方がよいと、先生の言うことは絶対だよというようであったと思います。しかし、今はそうではありません。もちろん親が子どもの成長にかかわるのは今も昔も変わらないですが、こと学校教育にかかわる部分については、かかわりが昔よりできてきたのではないかと思います。では、地域はどうかと言うと、昔は地域に怖いおじさんとかがいて、よく怒られました。しかし、今、地域は一体どうなってしまったのかということで、しきりに地域づくりが叫ばれています。今日の話も、まさに、学校・家庭を含めた地域づくりが協働というキーワードでまとまると思います。お互いに難しいことを話すのではなく、普段の経験であるとか、普段悩んでいることを語り合うとか、そこから共有できていくものがあるのではないかと思います。そして、学校が取り組みを積極的に発信することで、学校・家庭・地域で課題の共有化ができます。その共有化をもとにして、「みんなで一緒にかかわろうよ」「子どもたちのために一緒にやっていこうよ」と変わっていくことが、学校・家庭・地域の協働の第一歩であると感じます。これからも、子どもたちのために学校・家庭・地域がさらに協働していくことが、これからの教育に求められているということを申し上げて、シンポジウムを終わりたいと思います。

カテゴリー:教育研究愛知県集会<特別集会>, 子どもたちの健やかな成長を    

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