第61次 教育研究愛知県集会
2011/10/22
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基調報告より
現在、各学校では子どもたちの健やかな成長を願い、日々教育活動に取り組んでいます。そして、ゆとりとふれあいの中で子どもたちに主体性・創造性を育み、自ら課題を見つけ、判断し、行動できる「生きる力」を身につけさせることをめざした実践研究がすすめられています。
これまでの60次にわたる教育研究において、わたくしたちは夢と希望あふれる教育の創造をめざし、子どもたちを中心にすえ、それぞれの学校・地域の特色を生かした、自主的・主体的な研究を行ってきました。また、保護者への意識調査を実施し、今日的な教育課題を明らかにするとともに、各地域で教育対話集会や学習会を行い、保護者や地域の方々と意見交換をする中で、子どもたちの「生きる力」を育む取り組みについての合意形成をはかってきました。今後も、子どもたちに学ぶ喜び・わかる楽しさを保障するために、教育課程編成についてさらに研究をすすめ、「各学校における教育課程編成への指針-ゆたかな学びにむけて-」を発行し、発信していきます。
さて、日本は今、大きな試練のときを迎えています。社会全体に閉塞感が漂い、夢を描きにくいこの時代、わたくしたちは、子どもたちに対し、自らの夢を見つけ、たくましく成長してほしいと願わずにはいられません。このようなときだからこそ、体験や知識をもとに自ら課題を見つけ、判断し、行動することのできる力や学ぼうとする意欲も含めた総合的な力、すなわち「生きる力」を育むことが大切です。
しかしながら、小学校では本年度から、中学校でも来年度から完全実施される新しい学習指導要領では、小中学校ともに学習内容と授業時数が増加し、一方で体験的活動や課題解決などを行うために新設されたはずの「総合的な学習の時間」が縮減されています。子どもたちの「生きる力」はゆとりとふれあいのある教育の中で育まれるものであり、単に学習内容や授業時数を増加させるだけでは、子どもたちの負担がいたずらに増えるのみで、子どもたちの健やかな成長につながるとは考えられません。
わたくしたちは、学習指導要領を大綱的基準としてとらえ、未来を担う子どもたちのために、夢と希望あふれる教育を創造する取り組みを継続し、学校現場からの教育改革を推進していかなければなりません。そのためには、基礎・基本の定着はもちろんのこと、知識がつめこまれるような学びではなく、子どもたち一人ひとりが意欲をもち、自らすすんで取り組む質の高い学びを大切にするとともに、人・自然・文化などとかかわりあい、地域に根ざした体験活動を中心にした学習を構築し、すべての子どもたちのために学校・家庭・地域が連携を強化して、地域ぐるみの教育をおしすすめていかなければなりません。
今次の教育研究活動においても、ゆとりとふれあいの中で「わかる授業・楽しい学校」の実現をめざし、「学びの質を追究し、子どもたち一人ひとりの学ぶ喜び・わかる楽しさを保障する教育課程編成活動をすすめる」「学校・地域の特色を生かし、人・自然・文化などとのかかわりを大切にした創意あふれる教育課程編成活動をすすめる」の2点を研究推進の重点として提起しました。わたくしたちがすすめる教育改革は、日々の教育実践を積み重ね、その中で成長していく子どもたちの姿で示すべきだと考えます。各分科会においては、実践研究の報告をもとにして、活発な議論を展開するとともに、その成果を各単組・各分会にもち帰り、還流をはかっていただくことを大いに期待します。
最後になりましたが、この教育研究愛知県集会が愛知の教育のさらなる推進のため、そして何よりも目の前の子どもたちの健やかな成長のために、実り多いものとなることを祈念し、本集会開会にあたっての基調報告といたします 。
分科会
分科会の様子
国語教育(文学その他)
説明的文章8本と、文学的文章33本のリポートが報告された。目の前の子どもたちを見つめた地道な実践が多く、どのような教材で、どのように読む力をつけるべきかについて、報告されたリポートをもとに、話し合われた。
国語教育(作文その他)
表現の指導・言語の指導を通して、目の前の子どもたちの実態を見つめて、どのような子どもを育てるのか、文字言語・音声言語のよさを生かして、どのような力をつけていくのかについて、話し合われた。
外国語教育
「書く活動・話す活動(スピーチ)」、「小学校外国語活動」、「話す活動(対話)」、「学び合い」という4本の討論の柱にもとづいて、全員発表の形式で行われた。 子ども一人ひとりの外国語学習に対する苦手意識の軽減をめざしながら、積極的にコミュニケーションをはかろうとする態度や能力の育成に重点を置いた地道な研究実践が数多く報告された。
社会科教育(小学校)
子どもたちの追究意欲を高めるために、身近な地域の産業や事象を素材として活用し、調査・体験活動の時間を保障した上でまとめ方や発表の仕方を工夫した実践が数多く報告された。 また、地域のために働く身近な人や、地域で活躍した先人の働き、身近な歴史的事象や政治問題を、どう教材化し、どのような社会認識を養うかについて取り組んだ実践も報告された。 討論では、子どもたちの社会へ参画する力を高めるために必要な体験活動のあり方や、社会参画の意識を高めるための対話能力の重要性について熱心に話し合われた。
社会科教育(中学校)
子どもたちが主体的に取り組む学習活動のあり方や、社会に対する見方・考え方を深める学習指導のあり方についての実践が報告された。
身近な素材を教材化して地域社会の問題点を取り上げたり、地域規模の課題を子どもとつながりのあることとしてとらえさせたりして、切実感をもたせ追究していく実践や、学ぶ喜びを感じとることができるよう学習活動を工夫する実践、社会参画の意識を育む実践が多く報告された。
数学教育(算数)
「思考力・判断力・表現力の育成」「活用力の育成」「わかる・できる指導の工夫」「学び合う力の育成」の4本の柱立てで、実践の報告や討論が行われた。
どの報告からも算数の学習において基礎・基本の定着に主眼を置き、子どもが「できた・楽しい」と感じる学習展開の様子がうかがわれた。討論では、自分の考えをどのように表現させるか、どのように話し合わせると学びが深まるのかなどについて話し合われ、活発な意見交換が行われた。
数学教育(数学)
「確かな学力の定着」「数学的な見方や考え方」「学習形態の工夫」「自ら学ぶ力・意欲の育成」の4本の柱立てで、実践の報告や討論が行われた。どの報告からも、数学の学習において自らが意欲的に取り組み、「わかる」喜びを感じることができる学習展開の様子がうかがわれた。
討論では、それぞれの実践における評価の仕方や、理解に時間のかかる子どもに対しての手だて、これから改善していくべき課題などについて話し合われた。
理科教育(物理・化学)
子どもの発達段階や学習内容の系統性をふまえ、子どもが主体的に追究できるように単元構成を工夫した実践が報告された。また、自然概念形成を行うために教材・教具の工夫をした実践も数多く報告された。
「子どもの発達段階をふまえた教育課程編成のあり方」「自然概念形成に有効な教材・教具の開発、指導の工夫」などの柱立てのもと、討論が行われた。科学的な思考力を養う指導方法や理科の「基礎・基本」を定着させる指導方法についての意見が出された。また、実感を伴った学びや、知識と日常生活との関連づけの必要性についての意見も出され、活発な話し合いが行われた。
理科教育(生物・地学)
身近な自然に目を向けさせ教材化する実践、飼育・栽培活動を継続的に行う実践、マクロな自然現象のモデル化により子どもたちの理解を深める実践、キーワードを提示することで考えを深める実践などが報告された。
討論では「基礎・基本を重視するカリキュラムのあり方」「地域の素材・人材の教材化」「子どもの視点に立った教材・教具の開発」「子どもたちに理科の有用化を実現させる指導のあり方」などについて活発な意見が出された。その中で、科学的な事実を理解するためには用語の意味を正確にとらえることと、それを使った文を構成する力を養うことが重要であることが確認された。
生活科教育
栽培活動や自然とのかかわりを通して自然への愛着を深める実践や、おもちゃ遊びや探検活動などを通して気付きの質を高める実践が多く報告された。
気付きの質を高めるために言語活動を重視し、工夫されたワークシートに記述することで意識化したり、友だちに話すことで価値づけたりしている報告が多くみられた。
討論では、「つぶやきを拾い上げる方法」「気付きを見取る方法」「双方向性のあるかかわりをもたせるための手だて」などについて、活発に意見交換が行われた。
美術教育
「美術教育を通して子どもたちに伝えたいこと」をテーマに実践報告や討論がすすめられた。
総括討論では授業の中で教員が感じていることや子どもたちの実態に迫ることからテーマを深めることができた。「自然素材などの材料不足」「体験不足」「自信がもてない子ども」「発想を豊かにする難しさ」など、課題となる実態を認識しながらも、「教員の想像を超える子どもの発想力」「友だちとの豊かなかかわり」「作品に愛着をもつ姿」など、子どもたちの可能性に目を向けた話し合いが行われ、子どもたちに身につけさせたい力とは何かを考えることができた。
音楽教育
音楽を通してどのような子どもを育てたいのか、また音楽科教育におけるコミュニケーションとはどのようなものなのか、をテーマに討論をすすめた。
ビデオ・DVDによる実践報告では、どの報告もいきいきとした子どもの様子や、教員が意図したように変容していく様子をよくとらえていた。
小学校低学年では、親しみやすい楽曲や、わらべ歌などに合わせて体の動かし方を工夫したり、グループで曲の場面や歌詞の意味を身体表現したりする活動が報告された。小学校中学年では、地域の和太鼓を取り入れた実践や歌唱活動における基礎・基本を身につけるための実践が報告された。小学校高学年や中学校では、合唱指導におけるブレスコントロールや頭声的発声の基本を身につけさせる実践が多く報告された。
技術教育
生活の中で技術科が果たす役割について体験的に学ぶ実践が多く報告された。材料と加工では、課題解決学習や技能向上へのさまざまな手だてによって基礎・基本を身につける学習がすすめられた実践、エネルギー変換では、作業の反復練習や実験を取り入れたことにより、達成感や楽しさを感じることができた実践、生物育成では、地域や環境を考えた取り組みがみられた実践、計測と制御では、段階的な学習や子どもの関心を喚起する実践などが報告された。
家庭科教育
小中学校ともに、調査活動を取り入れたり、家庭や地域社会とかかわる総合的・発展的な内容などを取り入れたりし、家庭科の総合的な学習内容を生かした実践が多くみられた。また、実験や実習で調理や衣服の手入れの方法について、手順とその理由をていねいに追究する実践もみられた。どのリポートも、生活者として自立する力や、自分の生活や社会をよりよく変えていこうとする力といった、生活を主体的に営む資質や能力を育む実践の報告であり、充実した発表が行われた。
保健体育(体育)
「体育でどのような子どもを育てるか、自ら考え行動する子どもをどのように育てるか」を大テーマに、「かかわり合いを大切にした授業づくり」「学年に応じた体力向上と技能向上」を研究主題として、発表・討論が行われた。
どのリポートにも、指導方法の工夫や仲間とのかかわり方にさまざまな工夫のある実践が報告された。討論では、技能習得のための指導のあり方や教材の工夫、評価方法などについて、活発な意見が出された。
保健体育(保健)
「子どもが生活の主体となるための健康教育」をテーマに、さまざまな健康課題に対応した指導の方法や教材・教具を工夫した実践、保健学習の取り組み、体験活動を重視した実践などが報告された。報告を通して、健康に対する意識の高まりや健康課題を解決するための実践力が着実に育ってきている様子が感じられた。
自治的諸活動と生活指導(小学校)
「たくましく生きる子どもを育てよう」をテーマに、活発な討論がなされた。
子どもたちの人間関係を築く力を、学級や学年、縦割りや異学年交流を通してのばしていこうとする実践が多く報告された。また、子どもたちが自分自身を見つめ、自分の課題を克服していくことで、達成感や成就感を味わわせ、よりゆたかな人間性を身につけていく実践も報告された。さらに、学校や保護者、地域社会が連携して一人ひとりの子どもを支援していく実践なども報告された。
これらの実践報告をもとに、子どもたちの活動のあり方や意義、子どもたちの実態のとらえ方やそれをふまえた教員の支援のあり方について、熱心な討論が展開された。
自治的諸活動と生活指導(中学校)
「たくましく生きる子どもを育てよう」をテーマに、活発な討論がなされた。
人権教育や安全教育に関する活動、コミュニケーション能力を高める活動を中心にすえた実践から、子どもの主体的な活動が多くみられる学級活動や生徒会活動、家庭・地域との連携を通じて子どもの成長をねらう実践が報告された。
これらの実践報告をもとに、子どもたちの実態をふまえた教員の支援のあり方についての検討が深められた。
能力・発達・学習と評価
コミュニケーション能力を高める取り組みでは、評価の観点の提示やワークシートを工夫した実践、子どもの興味・関心を生かした教材づくりやからだレッスンを取り入れた実践が報告された。
よりよい勤労観の形成をめざすキャリア教育の取り組みでは、アサーショントレーニングやグループワークなどを取り入れ、自分のよさを見出し、将来の生き方を考えさせる実践が報告された。
子どもたちの学ぶ意欲を高め、学力をのばす取り組みでは、子どもたちの個性的な学びをのばす二単元同時進行の単元内自由進度学習を取り入れた実践やICT機器を活用し、子どもたちの主体的な学びや確かな学力を育てる実践などが報告された。
特別支援教育
「豊かに生きるための力を育む」というテーマのもとに38本のリポートが報告された。
子どもの教育的ニーズを的確に把握し、学習意欲を高めるような教材・教具を工夫した実践、子どもの現在や将来の生活に直接結びつく力を身につけさせるための実践、人とかかわる力やコミュニケーション能力を高めるための実践などが報告された。
進路指導
「進路指導」という領域の中にも、自己の進路を選択する力や、どんな人間になりたいか考える力、働くことへの関心をもつことなど、多くの目標がある。中学校での職場体験活動を中心にすえた実践から、小学校での自己の生き方について考える実践までさまざまなものが報告された。
小中学校におけるキャリア教育の必要性が叫ばれるなか、さまざまなアプローチで子どもたちの進路選択における主体性を育む指導がなされていることが確認された。
教育条件整備
「子どもの学習権の保障をどうすすめるか」を主題に、ICT教育にかかわる条件整備、安心・安全な学校づくりにかかわる環境整備、教育の情報化にかかわる条件整備、さまざまな教科指導にかかわる条件整備について報告された。
ICT機器を効果的に活用するために、授業実践をもとに充実した学習指導を行うための方法や形態、問題点を探るリポートや、安心・安全な学校づくりのために、現状や問題点をアンケートによる調査報告によってまとめたリポート、教育の情報化について、現状の調査にもとづいたリポートなどが報告され、熱心な討論が行われた。
過密・過疎、へき地の教育
地域の素材や人材を総合学習や生活科・国語科などの教科に取り入れることで有効に活用し、友だちや地域とのかかわりを深める実践、地域のよさを発見する実践、他校とのかかわりを深める実践、離島での小中連携についての実践など、少人数校の問題点を考慮しながらも、利点を生かし、地域素材を積極的に活用した教育実践が6本報告された。
へき地ならではの学校・家庭・地域のそれぞれのよさが生かされた取り組みやへき地校の抱える問題に真摯に取り組む姿勢から、それぞれ特色のある学校づくりへの意欲が感じられた。
環境問題と教育
地域の素材や人材を総合学習や生活科・社会科などの教材に取り入れることで学びを深める実践、節電や水などの身近なものを教材化し、環境問題解決にむけ、自分にできることから取り組んでいく実践など小学校から5本、中学校から2本のリポートが報告された。
環境問題について、子どもたちの意識を高めるとともに、よりよい環境づくりに目を向け、実践力のある子どもの育成をめざし、各教科や総合学習の中で、積極的に実践されている様子がうかがえた。
情報化社会の教育
各教科や総合学習などのねらいに迫るための手だてとして、ICT機器を有効に活用する実践が多く報告された。
また、子どもたちが、必要な情報を主体的に収集・整理したり、発信・伝達したりする情報活用能力の育成に関する実践も報告された。
さらに、社会的な問題となっているネット依存やネットいじめ、著作権や肖像権の侵害など情報モラルの育成に関する実践も報告された。
読書・学校図書館
現在、学校間での差はあるものの、蔵書数が増え、公共図書館との連携もすすめられてきている。しかし、読書の実態アンケートからは、活字離れや読書が嫌いな子どもの存在も指摘された。そこで、さまざまな働きかけを通して、「自ら本を手にとる子、読書が好きな子」を育てるための工夫を凝らした実践が数多く報告された。
また、各教科の授業で調べ学習を深め、広げていくためには、各校で取り組んだ一つひとつの実践を公開し、共有し合うことが有効であると確認し合った。
総合学習
地域とかかわり地域への愛着を深める実践、さまざまな体験活動を通して学び方や生き方を高める実践、食育・福祉・国際理解などの今日的課題に取り組む実践が報告された。どの実践も体験活動を効果的に位置づけて問題の解決や探究活動を行っており、単元で育てたい力を明確にしながら、めざす子どもの姿に迫る内容が多く報告された。