子どもの貧困と教育の機会均等 -就学援助・学校給食から考える- (早稲田大学大学院非常勤講師 鳫咲子さん)
2011/05/10
~第28回教育改革拡大学習会より~
第28回愛教組教育改革拡大学習会では、早稲田大学大学院非常勤講師の鳫咲子さんをお招きし、講演会を開き ました。いつの時代でも、子どもたちをとりまく現状をしっかりととらえ、学校・家庭・地域がそれぞれ連携を強化し、地域ぐるみで子どもたちを育てる認識を 深めていくことが必要です。今後わたくしたちが取り組むべき教育改革運動の方向性について学習を深めました。
就学援助は、どういう制度か?
憲法第26条の教育を受ける権利がもととなっている現在の義務教育無償制の内容は、公立小中学校における授業料無償、小中学生の教科書無償の2つしかな い。それ以外でいろいろなお金がかかる部分を教育の機会均等の理念で保障するため、教育基本法第4条、学校教育法第19条がある。また、直接、就学援助の 根拠になっているのは、就学奨励法と呼ばれる法律の第2条、学校保健安全法第25条、学校給食法第12条である。これらの法律では、市町村が行う就学援助 に対して、国は予算の範囲内において、必要な経費の一部を補助すると定められている。
生活保護(教育扶助)には、全国共通の認定基準があり、国庫補助は4分の3である。
就学援助制度の対象者には、生活保護を受けている要保護者と、要保護者に準ずる程度に困窮している準要保護者があるが、全国共通の認定基準は設けられておらず、自治体による差が大きい。
就学援助の現状
就学援助を受ける子どもは、約10年で人数・割合ともに約2倍に増加している。09年度、全国で149万人の子どもが就学援助を受けており、全国の公立小中学校児童生徒の14.5%、つまり、全国で、7人に1人の子どもが、貧困状態であるといえる。
愛知県においては、09年度、60,460人が就学援助制度の対象者であり、公立小中学校に通う子どもたちの総数に占める割合は、9.4%である。これは、全国平均の14.5%に比べて、低い割合である。
就学援助を受ける子どもが増えた大きな要因は、企業の倒産やリストラなどによる親の就業環境の変化と、離婚などによる一人親家庭の増加である。
義務教育を受けるための費用
子どもの学習費は、学校内の活動だけで年間1人あたり、中学生で約18万円、小学生で約10万円である。その費用の中で大きく占めるものは、給食が実施されている学校では給食費となる。中学校では、制服などの通学関係費や部活動費なども大きくなる。
文部科学省の調査によると、全国の給食費未納は07年において、99,000件であり、全体の1%が給食費未納となっている。未納総額は年間22億円と なっている。その理由の大半が保護者としての責任感や規範意識の低下といわれているが、実際は、経済的問題・社会的孤立など重複した困難を抱えて、子ども に十分な関心をむけられなくなっている可能性が高い。また、保護者の経済的な問題の中には、支援制度を知らず、受給資格を有しながら、申請を行っていない 場合がある。
子どもの貧困への政策の対応と自治体の運用の差
三位一体の改革により、05年度以降、準要保護者に対する国庫補助が廃止され一般財源化された。文部科学省の調査によると、05年度以降、準要保護者の認定基準の引き下げ、援助支給額の減額が行われている市町村がある。
就学援助制度の運用については、制度案内書を全世帯に配付したり、案内書に所得基準額を明示したりする自治体がある一方、制度案内書を配付・広報しない だけでなく、事務取扱要綱や手引きすらない自治体もあり、大きな違いがある。この違いには、市町村の行政能力が大きく影響している。
子どものための政策を考える
子どものための政策においては、シビル・ミニマム(最小限度の生活基準)を確保する上で、地域格差をどう考えるかが重要になってくる。教育の分野は、地 方分権が他の分野よりも早くすすんでいるため、各自治体の格差が大きくなってしまっている。また、子どもの権利条約第28条で定められているように、すべ ての子どもたちに高校卒業までの教育を保障しなければならない。そのためには、高校版就学援助が必要である。このような政策を考える上では、それぞれの子 どもや家庭の必要に応じた適切な情報提供と関係者(学校・福祉部局・NPOなど)の連携、情報の共有が必要である。