みんなで教育改革を

新学習指導要領と現場の課題  (東京学芸大学教授 大森 直樹さん)

2019/05/07

愛教組連合拡大学習会

 拡大学習会では、東京学芸大学特別支援教育・教育臨床サポートセンター教授の大森直樹さんにご講演をいただき、新学習指導要領の分析とそこから見えてくる課題への対応について学習を深めました。

講演をする大森直樹さん  トリ 

講師:東京学芸大学教授   大森 直樹さん

学習指導要領の分析

 新学習指導要領は、小学校では2020年から、中学校では2021年から全面実施される。新学習指導要領の全面実施における問題点として、学習量過多が強まっていることを指摘することができる。
 1977年告示の指導要領から1998年告示の指導要領までは、ゆとり教育をめざして授業時数の削減が行われてきた。しかし、内容の削減は不十分で、結果的に一時数あたりの学習量は過密になっていた。必要なのは授業時数の削減ではなく、内容の削減だった。だが、2008年の現行指導要領から授業時数と内容はともに増加に転じ、ゆとり教育の方向性そのものが否定されてしまう。
 新学習指導要領において学習量過多の傾向が強まっている要因の1つ目は、小学校の外国語科の新設である。2つ目は、内容の追加である。小学校のプログラミング学習。そのほか、小中学校の社会科において、北方領土・竹島・尖閣諸島の内容が追加拡充された。また、都道府県名の漢字を学ぶ必要があるとして、書き漢字が20字増加している。3つ目は、既存の内容の据え置きである。内容の増加に舵を切っていた2008年の指導要領から削減された内容は管見の限り1つもない。
 つまり、2008年の指導要領の問題点を改善することなく悪化させているのである。
 学習量過多には2つの問題がある。1つは、学習から落伍する子どもが出ること。2つは、落伍しない子どもも、ついていくことが精一杯となり、主体的に学習する機会が奪われることである。 

学校現場における課題への対応

  学校現場における課題への対応としては、新学習指導要領の矛盾を知ることである。新学習指導要領では、主体的な学習が奨励されている。しかし、かつてないほどの学習量過多の状態にあっては、主体的な学習を期待することは困難である。したがって学習量を増やした上で、主体的な学習を奨励するという根本的な矛盾を理解し、子どもたちや教員自身の能力不足として抱え込まないことが大切である。
 そして、これまでの教育実践リポートから学ぶことである。新学習指導要領では、3つの柱(知識・技能、思考力・判断力・表現力等、学びに向かう力・人間力)がうたわれている。目標と評価もこの3つの柱に従って設定されていく。しかし、学習内容は従来とほぼ変わっていない。そのため、これまでの教材研究を生かすことができる。 

まとめ

  学習指導要領はあくまでも、大綱的な基準である。学習指導要領は改訂されていくが、変わらないものが教材研究である。教員は教材研究を通じて、子どもたちとつながることができる。教材研究において大切なことは「子ども理解」と「教材(学問・芸術の成果)理解」を結びつけることである。抽象的な3つの柱に振り回される必要はない。
 学習量過多の中にあって、子どもも教員も大きな負担を抱えている。しかし、教育実践の歴史の中で蓄積された財産がある。それを生かすことが子どもたちのゆたかな学びにつながり、地域に根ざした創造的な教育課程編成にもつながるのではないだろうか。 

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