子どもたちの健やかな成長を

力と夢を育てる 地域ぐるみの学校づくり -第63次

2013/10/19

 特別集会では、奈良文化女子短期大学幼児教育学科長教授の善野八千子さんを講師としてお招きし、記念講演、参加者との意見交流を行いました。
 善野さんからは、「力と夢を育てる 地域ぐるみの学校づくり」と題してお話をいただきました。学校間の縦の接続、家庭・地域社会との横の連携をはかりながら、子どもたちに生涯学び続ける力である「生きる力」を育むために必要なことについて、ご示唆をいただきました。本集会を通して、子どもたちの健やかな成長のために、学校・家庭・地域が連携した教育活動の重要性について、再確認し合うことができました。

 記念講演
 意見交流 

記念講演:子どもたちの健やかな成長をめざして
      -力と夢を育てる 地域ぐるみの学校づくり-
講師:奈良文化女子短期大学幼児教育学科長教授 善野八千子さん

子どもの育ちと学びの連続から

 講演をする善野八千子先生

 本日は「子どもたちの健やかな成長をめざして」という大きなテーマのもと、力と夢を育てるという視点で、地域と一緒になって学校づくりをすすめることについてお話をしていきます。
 未来を担う人間の発達から教育を考えると、人はかけがえのない命をいただいた受胎に始まり、幼・小、小・中、そして中・高と連続して育っていきます。その中で、保育者や教育者などの大人と出会い、社会人となり、やがて生涯学び続ける「生きる力」をもった人間へと成長していきます。
 今、目の前にいる子どもたちは、未来へとつながるプロセスの中で、わたくしたちがたまたま出会っているだけなのです。しかし、この子どもたちが、やがて家庭の教育力をもった一人の親となり、ゲストティーチャーや地域の見守り隊など、地域の教育力をもった大人へとなるのです。そういう壮大なサイクルの中に、目の前にいる子どもたちはいるのだという認識をもって、子どもたちとかかわっていくことが必要だと考えます。
 【資料1】のように、「子どもは学び育ち、成長するもの」にもかかわらず、目の前の子どもの姿のみにとらわれてしまうことも多いかと思います。そこで、過去の学びと未来の育ちの通過点にある子どもを、地域の中で線としてつなぎ、どのように面へと広げていくかということを考えなければなりません。そのためには、幼児教育と義務教育の相互理解や、家庭・地域との相互理解などが必要となります。
 この中で、幼児教育、義務教育、さらには高校、大学、大学院へとすすんでいくことが、いわゆる学校教育という縦の軸、つまり「縦の接続」です。そして、学校教育と家庭教育、地域社会が一体となっていくこと、これが教育の連携性という横のつながり、つまり「横の連携」です。
 教育の一貫性という観点から考えると、現在、各学校種のつながりをもつ「縦の接続」が十分ではないと言われています。その中でも、幼小接続が大きな課題となっています。今こそ「地域の子ども」という意識をもって、教育の連携性・一貫性を考えてみることが大切なのではないでしょうか。

接続という「のりしろ」を

 教育における接続というのは、例えて言うならば「のりしろ」です。就学前の子どもや保護者にとって、3月のカレンダーをめくり4月になったら「入学だ!」と思っているとします。しかしながら、小学校の教員は4月からのカレンダーしかなく、保育者は3月のカレンダーが終わったら区切りをつけ、次にまた新しい4月のカレンダーを見るわけです。そうではなく、子どもの成長が連続しているという「のりしろ」をつけるのは、もちろん各学校種の保育者・教員であり、先生方と家庭・地域の方々で行うものなのです。みなさん一人ひとりが当事者意識をもって、知恵を出し合うだけではなく、自ら実践者となっていかなければなりません。そして、その中から「地域の子ども」がどうあってほしいのか、どんな姿をめざしていくべきなのか、考えることにつながっていきます。
 【資料2】の左上の写真は、そろえて脱いである一足の靴です。次に、左下の写真はこの子どもが幼稚園に行った時の姿ですが、「靴をそろえなさい」と言わなくてもすすんでトイレのスリッパをそろえていました。また、右下の写真のように、この幼稚園の靴箱はどの子どもも名前の標示にかかとをそろえて入れています。そして、右上は、この地区の中学校3年生の靴箱です。誰一人としてかかとをふんでいる靴はありません。このような子どもたちの姿というのは、どのように連続して育っていくのでしょうか。

ともにめざす子どもの姿

 【資料3】の図で示したように、教育というものは、現在の子どもの姿からめざす子どもの姿にするということです。そのためには、こんな子どもに育てたいというビジョンが必要です。そのためには、リサーチが必要です。今の子どもたちのよさ・弱点・課題などをしっかりととらえた上で、目標を設定し、実践をすすめていきながら、その実践を通していかに目標に近づけたかを評価し、また、それを改善するためにはどのような計画が必要かということを繰り返し考えていきます。いわゆる、PDCAというサイクルの中での取り組みです。
 教員のみなさんは、日々の教育活動に真摯に取り組まれており、PDのD(実践)の部分は一生懸命がんばっておられます。しかしながら、P(目標・計画)の部分をどれだけ意識されているか、また、職場においてどれだけ全体共有しているか、さらには、家庭や地域にどれだけ伝え、共有しているかということが重要であると考えます。
 教育活動は、意図的、計画的、そして継続的な営みです。意図をもって計画しなければ、それは実現していきません。そして、プランというのは、いつまでにどれだけのことをするかという一つの数値目標であり、具体的にみえる姿でなければなりません。このプランを学校と家庭・地域が一緒になってどのような目標をつくっていくのかということがたいへん重要なのです。

学校に求められるもの

 これからの学校に求められるには、次の5点であると考えます。

 1.コンプライアンス(法令順守)の徹底
 2.地域協働のマネジメント
 3.学校評価を生かした改善
 4.学力向上の具体的発信と実行
 5.教職員の資質向上・行動変容

 この中でも、地域協働のマネジメントですが、学校教育にかかわる者は、まず目の前の子どもたちが地域を支える大人へと成長していく「地域の宝」であるという意識をもたなければなりません。そして、地域にいるすばらしい人材、もう既に地域の中にいる貴重な応援団をどれだけ知っているかという立場で、学校側から地域の方々とつながっていくというマネジメントが大切です。
 次に、学校評価についてですが、例えば、レストランで「ご満足いただけましたか」などという大ざっぱなアンケートに答えるとします。仮に不満足と答えるだけではレストラン側にも真意が伝わらず、不満に思っている点が変わらなければ、答えることに意味を感じなくなります。学校評価も同様で、学校側が何を問いたいかが重要なのです。「本校はこのようなところをがんばっています。この点についてはどうですか」というように、問いかけたい視点をはっきりさせることが大切です。学校が主体となってアンケートの項目をつくり、学校が誇りとすること、そして、「こんな子どもを育てたいと考えていますが、ご家庭においてはどうですか」などと問いかける項目をつくっておくことで、学校の考えも家庭に伝え、PDCAのサイクルに家庭の力も生かしていく、それが、本当の意味での「評価を生かした改善」というものになるのではないでしょうか。
 また、学力向上の具体策ですが、学力とは一部の偏ったものとしてとらえているのではなく、「学ぶ」ということは学び方を教えることであり、生き方を教えることです。そのために、学校としては「現在こういうことに取り組んでいます」という具体的な学びのプロセスを伝えなければいけません。明日に子どもたちが急に変化するものではないからこそ、「このような取り組みを継続しています」というプロセスとその具体策を情報発信していくということがなくてはならないと考えます。
 また、これらをすすめていく上では、学校教育や家庭教育においても、クイックレスポンスが大切であると言われます。当たり前のことや些細なことであっても、お互いに返し合っていくということが大切なのです。なぜならば、すぐに返事が来ないと、現代の多くの家庭では、小さな不安がすぐに大きな不満になり、あっという間に不信につながります。しかし、すぐにこんな子どもに成長しましたといえるわけでもありません。だからこそ、「今、こういうことに取り組んでいる途中です」ということをしっかりと伝え合うことが必要だと思います。

家庭教育での「しつけ糸」

 家庭での子育てにおいて「しつけ」という言葉があります。漢字では「身が美しい」と書くので、これを躾という言葉の意味にされるようですが、本来「しつけ」というのは、日本古来の文化の中で、着物を仕立てるときの「仕付け糸」からきた言葉です。一定の形を整えていくために仮の縫い方をする。これが「仕付け糸」です。ですから、「仕付け糸」はある時期が来たら、外されるものなのです。
 人として最初の段階で、あるべき姿を整えるために、家庭が中心となり、幼児教育と重なり合って幼い子どもたちに身につけさせていくのです。それが十分でなければ、小学校教育でも「しつけ糸」を外せないのです。中学校教育でもまだ「しつけ糸」はついているのです。そして、本当に外せるときが来たら、その「しつけ糸」を外せばよいのです。子ども自身から外すこともあるでしょう。また、君はもう外してもいいねと知らせる時期が来るのかもしれません。まだ、その時期が来ていない子どもに対しては、しつけについて、家庭教育から学校教育にやや重点をスライドさせていくことも必要です。さらには、どんな「しつけ糸」を共通でつけようとするのかということを話し合い、共通理解のもと、あるべき姿を明確にしたビジョンをつくっていくことが大切です。

地域をサポーターに

 学校にはいろいろな電話がかかってきますが、めったによいことではかかってきません。学校や子どもに関心のある方ほど、よく電話をかけてきます。ある学校にこんな電話がかかってきました。「暑いなか、子どもを守ろうと思って、見守り隊で立ってるのに、あいさつ一つできないじゃないか。どういう教育をしてるんだ」というお叱りの内容です。そんなときは、すぐに謝ってはいけません。お礼を言いましょう。いただいた電話に対して謝るのは、事実確認をしてからです。「どういう状況でしょうか」と聞いていくと、よくわかってきます。実は、その子どもたちは、先日「知らない人から声をかけられたり話しかけられたりしても、相手にしてはいけない」という安全指導の話を聞いたばかりだったのです。
 それから、学校と地域でアクションプランを立てました。子どもたちを守ってくれている人だとわかるように安全パトロール隊の方々に水色のジャンパーを配ったのです。そうするとかかってくる電話の中身が変わってきます。「先生、いつもなかよく帰るあの二人組が、この一週間いつも毎日ばらばらで帰ってくる。どうも気になるから、話を聞いてやってくれないか」という電話です。顔と名前が一致するようになる中で、かかってくる電話の中身が変わってきたそうです。
 学校への関心がどんどん膨らんでいくなか、地域住民へ「学校の子どもたちのどんなことが育っていますか」「このことについてはどうですか」というようなアンケートを実施し、学校側は改善にむけての取り組みをすすめていきました。
 この学校は、年度末に学校評価結果報告会と授業参観を同時に開催しています。そこでは、「年度当初にこんな子どもを育てたいと考え、取り組んできました。その結果、みなさんにはこう見えているようです」というPDCAにもとづいた報告がされます。また、「取り組んでいるけれどもうまく伝わっていないようなので、もっとこんな伝え方をしたいと考えます」という現在進行形の返し方もあります。「実は、気がつきませんでした。ご意見をいただき、ありがとうございます」という場合もあるでしょう。
 これは、地域の教育力の中で、学校が変わっていきながら、学校や子どもたちを支える地域のサポーターがどんどんと増えたという事例です。

「何のために」という目的を

 わたくしがみなさんにお伝えしている学校・家庭・地域の連携や学校評価、幼小中連携などは方法でしかありません。これらはあくまでも方法論であって、本来の目的は「明日も行きたい学校・園づくり」であり、子どもたちが幸せになるための成長の保障や、学力の保障、そして「生きる力」を育むことであると考えます。小・中が連携したり、評価を生かして学校と地域が一緒に協力をしたりすることは、子どもたちを育てていくためのコミュニケーションツールであるということを忘れてはいけません。
 ですから「どんな子どもをめざすのか」というビジョンをもとにしたプランを立てた上で、愛知県の特色ある教育課程や各学校のカリキュラムの中に、これらの方法を生かしていくことが大切なのです。さらに言えば、実はこれだけでは曖昧なのです。「本校の子どもたちは元気な子どもが多く、・・・」という紹介をよく聞きますが、「どれぐらい元気ですか」と問い返すと、案外答えられないことが多いです。だからこそ、めざす子ども像を具体的に示した『数値目標』も効果的です。例えば、「昨年よりも欠席者がこれだけ減ってきました」「体力面ではこんなけがをする子が減ってきました」「保健室で手当てを受ける子がこれだけ減りました」「本園の年長児は、全員が登り棒のてっぺんまで登ることができます」などです。いろいろな視点で、具体的な目標をいつまでにどれだけというプランを立て、学校全体で取り組んでいくことで、学校のよさをより明確に語れるようになるわけです。数値結果を恐れる必要はありません。すばらしい目標をめざす中で、『数値目標』は状態や変化を実感しやすいものであり、思い込みではない子どもたちの姿を客観的に伝える際に有効な一つの手段であると考えていただけるとよいです。

地域が誇れる子どもたち

 地域にはさまざまな考えをもった方がいますから、客観的にずれたクレームであったとしても、それは要求があるということです。学校教育への願いは、みなさん違います。それらの要求の根底にあるものを引き出し、つなぎ、巻き込んでいくことで、それらの『相違』を『総意』へと合意形成していくことが必要です。そして、本当に大切なのは、無関心層への働きかけです。授業を参観されていた方々に学校の教育活動へさまざまな形で参加してもらうことです。そうした取り組みを通して、「こんな学校をつくってほしい」「こんなふうに学校にかかわらせてほしい」など、学校教育への参画意識を培っていくことが必要です。そして、学校・家庭・地域が手を携え、よりよいものを創造していく力となるのです。このような『創意』がつくられるとき「地域ぐるみの学校づくり」ができるのではないでしょうか。
 最後になりましたが、学校教育を行う側・支える側という関係ではなくて、一緒になって地域が誇れる子どもたちを育てていただきたいと思います。子どもたちはやがて地域の教育力をもった仲間になるんだという思いで、わたくしたち大人は子どもの学びのお手本としてかかわっていくことが大切であると思います。

意見交流

○ 保護者
 昔は今のような命にかかわるようないじめなどというのはなかったように記憶しています。子どもたちをとりまく環境も変わっていますが、わたくしたち大人にも何か足りないことがあるのではないかと思います。子どもたちに命の大切さや相手を思いやる心を育んでいくためには、保護者として、どんなことを心がけていけばよいのでしょうか。 

○ 善野先生
 わたくしは、あらゆる場面を通して「命はリセットできない」ということを語り、伝えていかなければならないと考えます。その一方で「節目節目で、生活と性格はリセットしよう」とも言います。それが入学時であったり、進級時であったりしますが、これらが一つの節目だと思います。家庭の中においては、誕生日だと思います。一人ひとりの子どもたちのかけがえのない命が誕生したときのことを「あなたが生まれたときにはこんな幸せな思いでみんなが喜んだのよ」ということを子どもたちに伝える日にしていただきたいと思います。それは親にしか伝えられないことです。「命はリセットできない」ということをしっかり伝えていただきたいと思います。

○ 教員
 わたくしは、担任しているクラスの子どもたちに命の大切さを常々伝えています。学校として、家庭や地域と連携して子どもたちに命の大切さを伝えるような具体的な実践例などがありましたら、教えてください。

○ 善野先生
 わたくしは、「命の重さ」より「命のはかなさ」を日頃から伝えていくことが重要だと考えます。教育の中で「命の重み」を伝えきることは、なかなか難しいですが、「命ってこんなに壊れやすいものなんだよ、はかないものなんだよ」ということはあらゆる場面で伝えることができます。そのため、伝えることが必要だと考えます。
 例えば、小学校における生活科や総合学習の中で、保護者に声をかけ、壊れそうなかけがえのない命の象徴としての赤ちゃんをゲストに迎えるという取り組みがあります。自分自身が歩んできた過去を振り返らせることで、子どもたちに、自分もこういう時期があったとか、命ってこんなにもみんなから祝福されているものなんだということを伝えることができます。また、地域からお腹に赤ちゃんがいるお母さんを招き、出産を控えた状況の中での不安や喜びや期待を語っていただくという学習を継続的に取り組んでいる小中学校もあります。中学校や高等学校においては、地域の幼稚園・保育園と連携して、保育実習を行っているところも多いようです。

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