子どもたちの健やかな成長を

子どもの心とからだの健やかな成長をめざして-学校における自殺予防教育のすすめ方-

2018/08/18

第37回 愛教組連合養護教員研究集会

 県内各地の女性部長と養護教員約300人の参加のもと、愛教組連合養護教員研究集会が開催されました。「子どもの心とからだの健やかな成長をめざして―学校における自殺予防教育のすすめ方―」をテーマに基調提案・意見交換・講演が行われ、学習を深めました。

基調提案「養護教員をとりまく情勢と課題について」

 子どもたち一人ひとりにきめ細かな対応をしたり、健康教育を充実させたりしていくためには、養護教員の複数配置の拡大や妊娠した養護教員の負担軽減措置などの拡充が重要である。
 県内の養護教員が一堂に会するこの機会に、互いに情報を共有し、養護教員にかかわる制度の拡充にむけ、ねばり強く取り組んでいきたい。

 講演会
【演題】「子どもたちのいのちを守るために わたしたちができること」
【講師】加古川市教育委員会学校支援カウンセラー 阪中 順子さん   

生き心地のよい学校・学級を

 学校や学級において、凝集性と多様性とのバランスをどうとるかは難しい課題である。例えば、休み時間は外で元気に遊ぶという学級のルールがあったとしても、守れない子どもに無理強いするのではなく、「今日はちょっと休んで、明日一緒に遊ぼうね」などの緩やかなかかわり方をして、その上で外に出たくなる工夫をすることが求められている。学校・学級は子どもたちにとって自己効力感や有用感を高め、援助希求できる環境であることが大切である。「弱みや悩みを見せるのは恥ずかしいことではない」「見せたら誰かが助けてくれる」と思える雰囲気が大切である。生き心地のよい学校・学級づくりは、このような日々の積み重ねによって可能となり、自殺予防につながっていくのではないだろうか。 

 

どもの自殺の実態

  小学生の自殺者数は、年間10人から20人、中学生は100人前後、高校生は200人を超えることが多い。中高生の自殺率は増加傾向にあり、自殺についての報道があったときなどに自殺率はさらに上がる。思春期の子どもは影響を受けやすいため、群発自殺、自殺の連鎖につながりかねない。思春期の子どもたちは、理想と現実とのギャップの中で自尊感情や自己肯定感が低減し、悩みを抱えやすい。しかし、悩むことは成長のきっかけにもなる。思春期の子どもたちが安心して悩むことのできる環境こそが必要である。そのため、学校が安心して悩むことのできる場になることが望まれる。
 大人は子どもの話に真剣に耳を傾け、1対1の信頼関係を築き、安心できる環境づくりをすすめることが大切である。

 

「命を大事にしなさい」は要注意

  子どもたちに自分の価値観を押し付けないように気をつける必要がある。授業で、「命を大事にしなさい。リストカットはだめ」などとは言わないようにしている。ここ数年自殺者数は減ってきたとはいえ、最近20年で自殺者数は50万人近くになる。自死遺児が教室にいるかもしれない。
 また、自傷行為をする子どもは、10人に1人と言われている。学級に自死遺児や自傷行為をしている「ハイリスクな子ども」がいる可能性を考慮する必要がある。死がよぎったとき、大好きな先生から、「自殺は絶対だめ」「命を大事にしなさい」「自分を傷つけてはいけない」と授業や保健室で言われたら、「ハイリスクな子ども」は、援助希求できるだろうか。その子の自尊感情はどうなるだろうか。「生きたい」と「死にたい」の間を行き来しているときに、正論や励ましは「理解してもらえない」と、より無力感・死にたい気持ちを増幅させるかもしれない。子どもの気持ちを理解しようとすることこそ、生きたい気持ちを支える。まずは、寄り添うことが求められている。どうしたら危機を乗り越えられるのか、どうしたら友だちや先生、両親に心の危機を伝えることができるのか。そのことを一緒に考えることが自殺予防教育ではないかと考えている。

 

自殺予防教育は寝た子を起こす?

  自殺予防教育を行うことによって、子どもに自殺の選択肢を与えるのではないかという不安の声を聞くことがある。しかし、子どもたちは、もうすでに「目を覚ましている」。そして、「ハイリスクな子ども」ほど危険なサイトにアクセスし、ときには誤った情報を含む知識を得ている。「友だちに、死にたいと言われたことがあるか」の問いに、17.2%の中学生が「ある」と答えている。そのとき、どう対応したのかを聞くと、3分の1の中学生が「どうしてよいかわからなかった」「笑って済ませた」などと答えている。大学生に調査しても、4分の1が「わからない。支えられない」と答えた。このような状況で、自殺予防教育をすることをためらっていてよいのだろうか。
 自殺予防教育では、友だちに相談され、友だちの心の危機を感じたら、「信頼できる大人に伝えて」と話す。「きょうしつ」というキーワードを覚えておいてほしい。          

   

   

…気付いて

…寄り添い 

…受け止めて 

…信頼できる大人(専門機関)に   

…伝えよう

  

   

 わたしたちができること

 自殺予防教育の実施には、教員や保護者が正しい知識をもち、連携することが大切である。命にかかわることは、地域の専門機関、相談機関、医療機関とつながり、情報を伝え合う必要がある。学校内では、子どものSOSに気付くために、組織としての工夫をする必要がある。研修などを通して個々の感性を磨くとともに、教職員が相互に連携をすることによって、アンテナが高くなり、子どもたちの変化にいち早く気付くことができるようになる。そして、大人自身が多くのネットワークをもっていることが大切である。「1人がいい」と言う子どもには、友だちや信頼できる人を求める気持ちが潜んでいて、親のことを「嫌い」と言う子どもには、親を求める気持ちが潜んでいるという視点に立つことが大切である。また、子どもが言う「大丈夫」という言葉のむこうにあるものを理解する必要がある。
 死にたいという気持ちの原因を率直に尋ねてもよい。子どもが辛さを話すことで、その押し込めた気持ちが解放され、楽になったり解決策が見えたりすることもある。子どもたちが援助を求められる環境、安心して自分の弱さを開示できる環境を、わたしたち大人が整えていくことが必要である。そして、子どもたちの心の声を聞こうとする姿勢、理解しようとする姿勢が何より大切である。

 

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