子どもたちの健やかな成長を

子どもの心とからだの健やかな成長をめざして-ネット社会に生きる子どもたちへのよりよい支援のあり方-

2020/08/22

第39回 愛教組連合養護教員研究集会

 新型コロナウイルス感染拡大防止のため、愛教組連合養護教員研究集会が紙面開催となりました。「子どもの心とからだの健やかな成長をめざして~ネット社会に生きる子どもたちへのよりよい支援のあり方~」をテーマに基調提案等が行われました。

基調提案「養護教員をとりまく情勢と課題について」

 子どもたち一人ひとりにきめ細かな対応をしたり、健康教育を充実させたりしていくために、養護教員の複数配置の拡大や妊娠した養護教員の負担軽減措置などの拡充が重要な課題である。
 県内の養護教員が互いに情報を共有し合い、養護教員にかかわる制度の拡充にむけ、ねばり強く取り組んでいきたい。

 講演会
【演題】「ネット社会に生きる子どもたちへのよりよい支援のあり方」
【講師】久里浜医療センター精神科医長   松﨑 尊信さん

子どもたちをとりまくネット・スマホ・ゲームの現状

 あらゆるものがインターネットにつながる時代となり、買い物、SNS、ゲームなどにかかわって、さまざまなサービスが生まれている。スマートフォンやタブレットがあれば、いつでもどこでも利用することができる。ゲームについても、インターネットを介して対戦などを行うものが増えてきている。総務省の調査によると、世帯におけるスマートフォンの保有割合は、2010年に約10%だったが、2019年には約83%にまで上昇し、約10年で急速に普及している。内閣府の調査によると、10歳から17歳の子どもたちのインターネット利用率は93%だった。その多くはスマートフォンの利用である。利用目的は、動画視聴やSNS、ゲームが多く、一日の使用時間の平均は、小学生で68分、中学生で133分、高校生で199分となっている。年齢が上がるにつれて、使用時間が明確に増えている現状がある。 

 

ネット・スマホ・ゲーム依存

  人間には、理性と本能がある。脳の前頭前野は社会性や理性をつかさどり、大脳辺縁系は、欲望や感情をつかさどる。通常は、前頭前野が優勢に働き、健全な社会生活を送ることができる。しかし、子どもたちは脳が未発達のため、欲望をつかさどる大脳辺縁系が優勢に働いてしまう。子どもたちがネット・ゲームを過剰に使用してしまう要因の一つと言われている。
  「依存症」という言葉から、一般にアルコールや覚せい剤などを連想する人が多いかもしれない。これらは物質依存と言われている。対して、ギャンブルや買い物などの行動に関する依存があることが、最近の研究でわかってきた。この行動依存にネット・ゲーム依存も含まれると考えられる。物質依存で失う大きなものは健康である。一方、行動依存で失うものには、お金や信用、時間などがあげられる。
 子どもたちにとって友人関係や勉強のつまずきなど学校におけるさまざまな問題がストレスとなりうる。しかし、ネット・ゲームの世界では、ゲームが上手であれば周囲から承認、賞賛、尊敬され、自己肯定感が高められる。現実でのストレスが多い人は、ネット・ゲームの世界に陥り、依存症になりやすいかもしれない。依存症になると、深夜までゲームに没頭してしまい朝に起きられなくなったり、ゲームをする時間が惜しくなり食事すら取らなくなったり、引きこもりになったりもする。さらに、ゲームの課金による金銭の問題など、家族との間にトラブルが引き起こされることもある。

 

治療・予防と対策

 近年の調査によると、ネット依存の患者は、ADHDや社会不安障害、うつ病などの合併精神障害の有病率の高さも指摘されている。背景に精神疾患がある可能性もふまえ、治療には医療機関との連携や家庭のサポートが必要となってくる。現代社会において、ネットを完全に絶つことは非常に難しい。よって、ネット依存は、使用時間を減らすことが現実的な治療目標となる。治療には、動機づけが最も重要である。周囲から強制的にコントロールするのではなく、自分の意思で行動を変えていくように援助していくことが大切である。認知行動療法という治療では、一日の生活を客観的に振り返ることで、自分の行動、生活を改める動機づけにつなげている。
 ネット依存の予防には、達成感や充実感を得られる活動、ストレス対処スキルを身につけること、将来の目標をもつことなどが大切となってくる。保護者が子どもと一緒に体験活動を行うことも有効となる。ネット・ゲームよりも楽しい体験は、子どもたちが依存から脱却するきっかけになるだろう。また、スマホ等の使用ルールを家庭で設けること、ただし、ルールは子どもと一緒に考えた上で設定することが重要である。保護者が一方的に設定したルールでは意味をなさない。後から保護者が勝手にルールを変更することも好ましくない。
 今後は社会全体での包括的な対策が必要になってくる。一般の人には、実態把握、正しい知識の普及啓発、子どもたちと保護者には、地域・学校でのカウンセリングを通した予防教育が求められる。ネット・ゲーム依存の人に対しては、適切な医療サービスの提供、アクセス制限等のサービス提供側の倫理的配慮などが求められる。社会全体で、この問題に対して取り組んでいくことが不可欠である。

 

 

 

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